選択的夫婦別姓を求める声が続く中、その根拠として挙げられてきた「旧姓使用によるトラブル」が、実はすでに多く解消されている――。そんな実情が国会の場で明らかになった。
9日の衆議院法務委員会では、参政党の吉川里奈議員が登壇。経団連が昨年6月に提出した提言の中で、「旧姓が使えないことで仕事や契約に支障が出る」といった事例が取り上げられていることに触れ、「その情報、今の実態と合っていないのではないか」と疑問を投げかけた。
これに対して、鈴木馨祐法務大臣は「何が実際の問題なのかを正確に把握することは極めて大事だ」と答弁。省としても現場の状況を見極めた上で対応する考えを示した。
経団連の事例、いまはもう“過去の話”?
もともと、経団連は「旧姓のままでは不動産の登記ができない」「契約書にビジネスネームで署名しても効力が不明」など11の具体例を挙げ、夫婦別姓制度の導入を訴えていた。しかし、その後の関係省庁の検討や制度の改善により、実際にはこうした“トラブル”の多くがすでに解消されている。
たとえば、不動産登記に関しては今年4月から旧姓の併記が可能に。契約書の署名についても、ビジネスネームであっても問題なく法的効力があることが明言されている。つまり、当初の懸念は制度の運用改善で十分カバーできているのが現状だ。
「夫婦同姓」は日本社会の基盤のひとつ
吉川議員は、「経団連は影響力のある団体で、その提言は別姓議論を一気に加速させる火種にもなった。だからこそ、実態とズレた情報が残っているなら、きちんと是正すべき」と強く主張した。
さらに、「そもそも夫婦が同じ姓を名乗るというのは、単なる法律上のルールではない。家族がひとつであるという、社会にとって大事な“絆”の象徴でもある」とも語っている。
一部からは「時代遅れ」との批判も聞こえるが、夫婦同姓は長年にわたって日本社会の家族観を支えてきた制度でもある。これを“選べるようにしよう”という話は、一見やわらかく見えるが、実際には家族という制度の根本を揺るがす可能性を含んでいる。
「国際基準」と日本の文化は同じではない
国連の女性差別撤廃委員会など、海外からは日本の夫婦同姓制度に対し批判もある。だが、国際基準という言葉を持ち出して、各国の文化や社会背景を無視して議論を進めるのは少し乱暴だ。
世界を見れば、夫婦が同姓を選ぶ国は今も少なくないし、家庭の一体性を重視する考え方も根強く残っている。日本でも、旧姓使用の柔軟化や併記制度など、必要な範囲での制度対応はすでに行われており、民法の根幹にまで手を入れる必然性は見えにくい。
経団連はどう動く? 提言の更新は未定
経団連の十倉雅和会長は7日の記者会見で、「(提言の)更新は必要があればやる」と述べたものの、具体的な対応時期などは明らかにしていない。だが、社会に与える影響が大きい組織である以上、過去の情報が現在の議論に誤解を与えているなら、速やかに見直す責任はあるはずだ。
- 経団連が指摘した「旧姓使用によるトラブル」は、多くがすでに制度改正などで解決済み。
- 法務省も現行法で対応できると明言。別姓制度の“必要性”は薄れている。
- 吉川議員は「夫婦同姓は家族の絆を支える大事な制度」とし、慎重な議論を求めた。
- 国連の勧告よりも、日本の文化や社会的実情を重視すべきとの声も根強い。
- 経団連の情報更新と、事実に即した冷静な議論が今後のカギ。