2020年に発覚した日本学術会議の会員任命拒否問題をめぐり、当時の安倍政権が人事に事前介入していた疑いが、改めて国会で取り上げられた。
4月8日の参議院内閣委員会で日本共産党の井上哲士議員は、政府が任命を拒否した6人について、官邸が推薦段階から関与していたのではないかと追及。情報公開請求で明らかになった内部資料をもとに、任命拒否の経緯を明らかにするよう強く求めた。
バツ印がつけられた6人の名前
井上氏が提示した資料には、「R2.6.12」という日付とともに、任命拒否された6人の氏名と肩書が明記されていた。そして、6人全員の名前には大きくバツ印が付けられていたという。
この文書について政府は、「任命権者側から学術会議事務局に伝えられた内容を記録したもの」と説明。しかし、井上氏は「任命権者とは具体的に誰なのか」「このバツ印は誰がつけたのか」と問い詰めた。
決定前に作られた資料 「事前介入ではないのか」
井上氏が特に問題視したのは、資料の日付だ。学術会議が次期会員候補の名簿を正式に決定したのは2020年6月25日。一方、問題の資料はその約2週間前の6月12日付。つまり、候補者名簿が正式に決まる前から、官邸側が特定の候補者にバツをつけていた可能性があるというのだ。
「これは、安倍政権による事前の介入ではないか」と井上氏が指摘すると、林芳正官房長官は「推薦名簿の提出前に意見交換が行われたことはあった」と認めたものの、「任命の考え方のすりあわせまでは至っていない」と述べ、明確な介入は否定した。
「人事だから答えられない」繰り返す政府に批判
林官房長官は「人事のことなので答弁は差し控える」との姿勢を崩さず、詳細な答弁を避けた。これに対し井上氏は、「これは単なる人事の問題ではなく、手続きそのものが法に照らして適切だったのかが問われている」と反論。
さらに、政府が今国会で提出予定の「学術会議の法人化法案」についても触れ、「今回の問題の責任が明らかにされないまま、学術会議を解体するような法案を進めるのはおかしい。法案は撤回すべきだ」と主張した。
学術会議の独立性に揺らぎ
日本学術会議は、政府から独立した立場で科学的な提言を行うことを目的に設立された組織だ。にもかかわらず、政府が人事に関与していたとすれば、その独立性が根本から揺らぐことになる。
今回の問題に対して、学術界や野党からは「学問の自由への介入だ」との批判が相次いでいる。政府はこれまで、任命拒否の具体的理由を明かしておらず、説明責任が強く問われている。
今後の焦点
一連の追及で、安倍政権下における学術会議人事への関与がますます疑われる状況となった。今後、資料の出どころや指示の経路、バツ印の意味を誰がどのように決定したのかなど、さらなる説明が求められるだろう。
政権による人事介入の疑いは、学問の自由を守る上でも極めて重大な問題だ。政府がどこまで実態を開示し、責任を明らかにするのか――その姿勢が問われている。