人口減少が進む奈良県南部・東部地域で、県が市街化調整区域の開発規制を緩和する方針を打ち出した。これまで制限されてきた工場や店舗などの建設を、一定の条件のもとで柔軟に認めることで、地域の活性化と移住・定住を後押しする狙いだ。山下真知事は「住みながら働ける地域を目指したい」と語り、令和7年度中の運用開始を目指すとしている。
「一律では対応できない」現場の声
対象となるのは、五條市、御所市、宇陀市、高取町、明日香村、吉野町、大淀町、下市町の8市町村。これらの地域では、都市計画法に基づき市街化を抑える「市街化調整区域」に指定されているため、新たな建物を建てる際には厳しい制限がかかっていた。
しかし、過疎化と人口流出が深刻な地域では、「地域の実情にそぐわない」との声が自治体から相次いでいた。
「新しくできたニーズに対応できていない」「一律の基準では必要な施設が建てられない」——そんな訴えを受け、県は今回、一定のルールを保ちながらも規制の見直しに踏み切ることにした。
具体的な緩和内容
主な変更点は以下のとおり。
- 工場用地の面積要件を緩和
従来は「1ヘクタール以上」が必要だったが、これを「0.3ヘクタール以上」に引き下げる。これにより、中小規模の企業や工場も参入しやすくなる。
- 立地場所の条件を緩和
これまで「京奈和自動車道のインターチェンジから概ね1キロ以内」に限っていたが、今後は市町村が定める「まちづくり方針」に沿って設定された工業系ゾーンでも立地可能に。
- 店舗の設置要件を緩く
これまでは「500メートル圏内に100戸以上の住宅があること」が必要だったが、今後は「地域振興に資するとして市町村長が認めた場合」に限り、住宅密度にかかわらず設置できるようになる。
- レジャー施設も対象拡大
これまでは運動施設が中心だったが、新たにキャンプ場やピクニック緑地なども「必要な施設」として追加される。
- 空き家の再利用促進も視野に
住宅の建て替えについても、これまでは「解体後1年以内」が条件だったが、この期限が撤廃され、空き家の再利用や移住者の受け入れを進めやすくする。
「暮らしと仕事が近い地域を」
県としては、企業誘致を進めながら雇用を創出し、若者や子育て世代の定住につなげたい考えだ。山下知事は「職住近接の環境を整えることが、人口減少を食い止める鍵になる。住む人が地域の中で仕事を見つけ、暮らしていける仕組みをつくりたい」と意気込む。
今後は、各市町村がそれぞれの「まちづくり方針」を策定し、それに基づいて具体的な区域指定や施設整備が進められる。県も地域ごとの特色を尊重しながら、柔軟な制度運用を後押ししていく方針だ。
- 対象は奈良県の8市町村(五條、御所、宇陀、高取、明日香、吉野、大淀、下市)
- 工場立地要件を1ha → 0.3haに緩和
- 立地場所の条件を「インター周辺」→「工業ゾーン」へ拡大
- 店舗やレジャー施設の要件も柔軟化
- 住宅建て替えの期限を撤廃し空き家活用へ
人口減少という難題に直面する中、奈良県が打ち出した新たな一手。地域に寄り添った土地利用のルールが、どこまで成果を上げるのか注目される。