4月8日の参議院外交防衛委員会で、日本維新の会の柳ケ瀬裕文議員が、中国で拘束・起訴されたアステラス製薬の日本人従業員に関する問題を取り上げた。柳ケ瀬氏は、中国の「反スパイ法」の曖昧な運用に強い懸念を示し、政府に対して邦人の安全確保と情報開示の働きかけを一層強めるよう求めた。
何の罪で起訴されたのかも分からず
議論の発端は、アステラス製薬の現地駐在員が昨年3月に中国当局に拘束され、8月に起訴された件。柳ケ瀬議員は「起訴されたとされているが、その罪状は何なのか?本人は自覚しているのか?中国側から説明はあるのか?」と政府に質問。これに対し、外務省の岩本桂一領事局長は「スパイ活動に関与した疑いがあると中国側は述べているが、それ以上の詳細は明かされておらず、日本側も把握できていない」と答えた。公訴事実すら明らかにされていない中で、本人とのやり取りの中身も不透明なままだという。
国際的な人権基準すら満たさない中国
柳ケ瀬議員はさらに、中国の反スパイ法自体が非常に不明瞭だと批判した。「実際には、逮捕した現場の捜査員の判断ひとつでスパイ認定がなされているのではないか。非常に危険な状態だ」と指摘。また、中国がいまだに国際的な人権条約である自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)を批准していない点にも言及し、「イランやアフガニスタン、ソマリアですら締約国だ。にもかかわらず中国はそれすらもしていない。人権後進国であることは明らかだ」と強い言葉で非難した。
中国渡航リスク、もっと周知すべき
こうした問題を受け、柳ケ瀬氏は「私は以前から、中国への渡航は非常に危険だと指摘してきた。外務省はそのリスクをもっとしっかり訴えるべきだ」と主張。特に観光などで軽い気持ちで渡航する日本人が多い中、リスクの実態はあまり伝わっていないと警鐘を鳴らした。
これに対し岩屋毅外務大臣は「中国での反スパイ法適用については、これまでも法人向けに注意喚起を行ってきた」とした上で、「法律の運用が極めて不透明であることを踏まえ、具体的なスパイ行為の例示なども含めて注意喚起を強化してきた。今後も邦人保護に万全を期す」と述べた。
改正反スパイ法が企業活動に与える影響
中国では2023年7月に反スパイ法が改正され、適用範囲が大きく広がった。国家の利益や安全に関わる情報の取得・送信・保存なども「スパイ行為」に含まれる可能性があるとされ、現地で働く日本人や、企業の通常業務すら摘発対象になり得るという懸念が強まっている。
たとえば、企業が市場調査や提携交渉のために取得した情報が、中国当局の判断ひとつで「国家機密」とされる可能性もあり、JETROなども法人向けにリスクマネジメントの強化を呼びかけている。
情報発信の仕方も見直すべき
柳ケ瀬氏は最後に、「外務省は『ホームページに注意喚起を載せている』と言うかもしれないが、それでは不十分。多くの人に伝わっていないのが現状だ。もっと積極的にリスクを伝えてほしい」と訴えた。
今回の質疑では、単に一人の日本人が拘束されたという事実を超えて、中国の法運用の不透明さや人権意識の低さ、そして日本政府の情報発信の在り方まで、多くの問題が浮き彫りになった。政府がどれだけ本気で邦人を守る姿勢を見せられるかが、今後さらに問われることになりそうだ。