2026-03-24 コメント投稿する ▼
サザエさんちの年金は… 支え手の減少は本当か?
こうした不安を背景に、社会保障制度は「おみこし型」から「騎馬戦型」、そして「肩車型」へと移行している、つまり高齢者一人を支える現役世代の数が減っていく、という図式が広く語られてきました。 つまり、高齢者一人を支える現役世代の数が「減っていく」という「肩車型」の時代が来る、という見方は必ずしも正確ではなく、むしろ、「ずっと肩車型だった」と捉える方が実態に近いと指摘しています。
この「肩車型」への移行という言説は、高齢者人口の増加と生産年齢人口の減少という、日本の社会構造が直面する現実を端的に示しているように思えます。そのため、将来の社会保障制度の維持が危ぶまれ、現役世代の負担増への懸念や、給付水準の引き下げ論につながることも少なくありません。若い世代の中には、自分たちが十分な年金を受け取れないのではないかという不安を抱く人もいます。
しかし、こうした世の中で広く信じられている言説に対し、一石を投じる専門家がいます。慶応大学教授の権丈善一氏は、社会保障のバランスを語る上で一般的に用いられる「高齢者一人に対する現役世代の数」という見方、特に年齢で区切る考え方に疑問を呈しています。同氏によれば、社会保障の担い手とその受益者の関係を正しく理解するには、年齢ではなく、「就業者と非就業者の比率」で捉えるべきだというのです。
権丈教授の主張の根拠となるのが、政府が発表している労働力統計などのデータです。これらの統計によれば、日本の就業者と非就業者の比率は、過去70年以上にわたり、おおむね「1対1」という安定した状態を保ってきました。つまり、高齢者一人を支える現役世代の数が「減っていく」という「肩車型」の時代が来る、という見方は必ずしも正確ではなく、むしろ、「ずっと肩車型だった」と捉える方が実態に近いと指摘しています。
では、なぜこのような安定した比率が維持されてきたのでしょうか。その背景には、社会構造の大きな変化があります。特に、働く女性の増加と、男女ともに働く期間の長期化が、就業者数を押し上げる要因となっていると考えられます。かつては、女性や高齢者が家庭や地域社会に留まることが一般的でしたが、現在では多くの女性が社会に進出し、また、定年後も意欲と能力のある人が働き続けるケースが増えています。
例えば、国民的アニメである「サザエさん」一家を例に考えてみましょう。連載が始まった1950年代、7人家族で働いているのは父親の波平さんと、その娘婿であるマスオさんの2人でした。当時54歳だった波平さんは、翌年には定年退職を迎える年齢であり、現代の基準から見れば高齢者予備軍とも言えます。マスオさん一人に家計と(将来の)社会保険料の負担がのしかかる状況を想像すると、一家の将来が案じられます。
しかし、この一家を現代の平均的な家庭に置き換えてみると、状況は大きく変わります。仮に波平さんが現代の一般的な定年延長制度を利用すれば、65歳まで働き続ける可能性が高いでしょう。また、専業主婦であったサザエさんや、その母であるフネさんも、現代ではパートタイムなどで働く女性が増えています。統計的なデータに照らし合わせれば、現代の家庭では、より多くの構成員が就業し、社会保険料を納めている可能性が高いのです。
この現役世代の働き方の変化が、社会保障制度、特に年金制度に与える影響は決して小さくありません。厚生労働省が数年前に公表した将来推計によると、現行の制度下で、将来世代が受け取る年金額は、経済成長のシナリオによって変動するものの、現役時代の給与水準や物価上昇などを考慮しても、決して悲観的な数字ばかりではありません。例えば、2046年頃に65歳となる現在の20歳代の人が受け取る年金は、低成長シナリオでも物価調整後の実質額で、現在の65歳受給者よりも多くなることが見込まれています。
社会保険料の負担増に対する不満や、軽減を求める声は後を絶ちません。しかし、社会保険料は単なる負担ではなく、将来、自身や家族が受ける医療や介護、そして年金といった社会保障サービスという形で、「果実」として必ず自身に還ってくるものです。保険料を安易に引き下げる、あるいは免除するような改革論は、こうした「果実」の価値を見過ごしがちです。
こうした状況を踏まえると、保険料負担の軽減を求める声ばかりが先行し、その結果として企業側の負担が減るような改革が進むことには、慎重な姿勢が必要と言えるでしょう。社会保険制度は、単に現役世代が高齢者を支えるという一面だけでなく、社会全体でリスクを分担し、将来の安心を確保するための仕組みです。その恩恵は、納めた保険料に応じて、巡り巡って私たち自身に返ってくるのです。
まとめ
- 将来の社会保障、特に年金への不安が広がる中、「現役世代が高齢者を支えきれなくなる」という言説が語られている。
- 慶応大学の権丈教授は、社会保障の担い手は「年齢」ではなく「就業者と非就業者」の比率で見るべきだと指摘。
- 統計データによると、就業者と非就業者の比率は過去70年以上、おおむね1対1で安定しており、「肩車型」の時代が来るというより「ずっと肩車型だった」と分析。
- 働く女性の増加や、働く期間の長期化がこの比率維持に寄与している。
- 将来の年金受給額は、経済シナリオ次第だが、現役世代が納めた保険料の「果実」として、将来世代も十分な額を受け取れる可能性が推計されている。
- 社会保険料は将来の自分に還ってくる「果実」であり、安易な負担軽減論は企業のみが得をする構造につながる危険性がある。