2026-11-04 コメント投稿する ▼
フランス「先生不足」デモの深層 音喜多氏が語るパリ暴動と政治の「カオス」
しかし、西村氏によると、パリの街全体が常に危険な状態にあるわけではないという。 音喜多氏は、この「中道が弱い」という状況は、フランスに限った話ではないと指摘する。 音喜多氏が特に問題視するのは、フランスにおける「左派が弱すぎる」という点だ。
パリのデモ、日本で報じられる「治安崩壊」の真実
フランスで近年、頻繁に発生するデモや暴動の映像は、日本でも大きく取り上げられている。黒いマスクをつけた人々が店を破壊し、略奪や車両放火といったショッキングな光景は、まるで治安が崩壊したかのような印象を与えがちだ。西村ゆか氏がフランス・パリから一時帰国した際に、日本の友人たちからも「大丈夫?」という心配の声が多数寄せられたという。
しかし、西村氏によると、パリの街全体が常に危険な状態にあるわけではないという。デモが行われる地域はおおむね決まっており、その一帯が一時的に騒がしくなるものの、それ以外のエリアはいたって普段通りの様子だそうだ。この状況を、西村氏はハロウィンの渋谷に例える。渋谷のスクランブル交差点やセンター街は騒然となるが、新宿や池袋にいる人々にとっては直接的な影響はない。同様に、パリでも「東京は大変だ」と言われても、パリの大部分は普段通りの生活が営まれているのだ。
「先生が足りない」という切実な叫び
今回のデモの直接的な発端となったのは、2026年9月、パリ郊外のクレテイユにあるサン=テグジュペリ高校で起きた「先生が足りない」という問題だった。新学期が9月に始まるにもかかわらず、フランス語の授業が9月末まで始まらないという状況が発生した。大学進学に関わる試験は全国一律で行われるため、授業が不足した生徒たちにとっては、この不公平感は看過できないものだった。
生徒たちは、自分たちの学習権が脅かされていると声を上げた。これに加え、学校の老朽化した校舎や、学食の利用料金が安くなった結果、昼食時に1時間も並ばなければならないといった、学生生活に直結する具体的な問題も、運動を後押しした。これらの訴えは、教育現場の環境改善を求める極めて真っ当なものであり、当初は多くの共感を集めた。事実、この学校の教員不足問題については、比較的速やかに補充などの改善策が講じられたという。
デモの拡大と「カオス」化する社会
しかし、この教育問題への訴えは、当初の意図を超えて拡大していく。他の学校からも「うちの学校も同じだ」という声が上がり、パリ中心部の恵まれた学校やエリート校の生徒たちも、この問題を社会に知らせるために連帯を示し始めた。ここまでは、むしろ前向きな広がり方だったと言えるだろう。
ところが、そこに年金改革への反対デモなど、別の社会運動が次々と合流した。さらに、「とにかく壊す、燃やす、奪う」といった、本来のデモの目的とは異なる参加者も入り込んできた。本来、デモと暴動は分けて考えるべき性質のものである。だが、ネガティブで衝撃的な映像の方がメディアの注目を集めやすいという特性も相まって、「デモ=暴動」というイメージが先行してしまう。結果として、最初にあった教育現場の切実な訴えは、その本来の意図がほとんど伝わらなくなってしまった。西村氏によると、デモが起きる通り沿いのお店は、そのたびにベニヤ板を打ちつけて自衛しており、まるで台風対策のようだと語る。ルイ・ヴィトンの店舗がガラスを割られなかったというエピソードは、ある意味でユーモラスに聞こえるかもしれないが、毎回こうした対策を強いられる店側の苦労とたくましさには頭が下がる思いだ。
政治利用されるデモと「中道・左派の弱体化」
この混乱した状況は、来春に控えたフランス大統領選挙とも深く関連している。各候補者は、このデモ騒動をそれぞれの立場から解釈し、「左派が煽っている」「現政権の政策が悪い」などと、自らの政治的立場を有利にするために利用している側面が強いという。候補者たちの主張自体に全く根拠がないわけではないが、デモの根本的な原因となっている教育問題の解決に焦点を当てた議論にはなっていない。西村氏の言葉を借りれば、まさに「カオス」な状況が展開されているのだ。
こうした状況下で、特に存在感を増しているのが、極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏である。ルペン氏は過去に公金をめぐる事件で有罪判決を受けており、一時、大統領選への出馬が危ぶまれていた。しかし、2026年7月の控訴審判決で、有罪は維持されつつも出馬は可能という見解が示されている。フランスの政治では、これまで極右候補が決選投票に進んだ場合、他の勢力が結束して中道候補を当選させるというパターンが定石だった。ところが、今回はその中道勢力が極めて弱く、決選投票まで行けばルペン氏が有利になるという見方も少なくない。
音喜多氏は、この「中道が弱い」という状況は、フランスに限った話ではないと指摘する。世界中で物価高が国民生活を圧迫する中で、政権は困難に直面している。このような時代には、極端で分かりやすい主張の方が人々の心をつかみやすい傾向がある。音喜多氏が特に問題視するのは、フランスにおける「左派が弱すぎる」という点だ。右派ばかりになるのも問題だが、左派に政権を任せられるかという問いに対して、明確に「任せられる」と言えない状況が、結果として極端な思想へと人々を流れていかせてしまうのだ。
日本においては、事情が異なると音喜多氏は分析する。安倍政権下で8年以上にわたり、教育の無償化や女性活躍推進といった、本来リベラル層が重視してきた政策が次々と取り込まれていった。理想は語るものの、それを実行できない側と、現実的に実行していく側との構図の中で、日本のリベラル勢力は体力を削られていったように見える。もともと保守系の政治家だった自身が、今やリベラル寄りと見なされかねないほど、日本でも政治の空気が右に傾いていると、音喜多氏は肌で感じているという。
今回の西村氏との対談で、音喜多氏が特に印象に残ったのは、デモが「先生がいない」「トイレが壊れている」「お昼ご飯に1時間並ぶ」といった、極めて具体的で身近な問題から始まったという点だ。こうした一般市民の切実な声が、いつの間にか暴動の映像や政治的な思惑によってかき消されてしまう。教員不足は日本でも決して他人事ではなく、フランスの事例は、我々が社会の動向を注視する上で、多くの示唆を与えてくれるだろう。
この音喜多氏のブログ記事は、選挙ドットコムなどのメディアでも紹介されており、その分析の的確さが注目されている。
まとめ
- フランスで頻発するデモは、「先生不足」をはじめとする教育現場の具体的な課題から端を発した。
- 日本で報じられる衝撃的な映像とは異なり、パリの日常生活への影響は限定的である。
- デモは来春の大統領選挙を控えた候補者たちによって政治的に利用され、社会は「カオス」な状況に陥っている。
- フランスにおける「中道・左派の弱体化」が、極右勢力の台頭を招く一因となっている。
- 音喜多氏は、身近な問題が複雑な社会情勢に埋もれてしまう現状に警鐘を鳴らし、教員不足問題など、日本との共通性にも言及した。
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