2026-06-07 コメント投稿する ▼
高校生の8割超が「内申書」を意識 学力と直結しない「見せかけ評価」の歪み
高校生の8割超が「内申書」を意識して行動を変えている実態が、全国約3000人を対象とした調査で明らかになりました。「定期テストで頑張った」84.7%、「欠席しないようにした」73.7%など、内申書を上げるための行動が多数を占めています。しかし、内申点が高いことと学力が高いことは必ずしも直結しません。受験のために「見せかけの積極性」を演じる子どもたちの実態と、絶対評価制度が抱えるいびつな評価構造の問題を考えます。
8割超が「内申書」を意識 定期テストも欠席も受験戦略
「校則を守っているのは内申書のため」「積極的に発言しているのは評価されるため」。高校受験を控えた中学生の間で広がるこうした行動の実態が、調査によって浮き彫りになっています。
東京大学大学院の中村高康教授は、2020年に全国約3000人の高校生を対象に、内申書が生徒の行動にどのような影響を与えているかを調査しました。結果は、「定期テストの成績が上がるように頑張った」が84.7%、「欠席しないようにした」が73.7%、「授業中は積極的に発言するようにした」が69.9%、「部活動に積極的に取り組んだ」が68.4%と、中村教授自身が「思った以上に割合が高かった」と述べるほどの数値でした。
内申書を意識した行動が実際の生活に影響した生徒の割合を「内申書支配率」と呼ぶとすれば、8割以上の生徒がその影響下にあることになります。
「授業中に手を挙げるのは、わからないからじゃなくて内申点のためです。これって本当に良いことなのかな」
「欠席すると内申が下がると言われたので、熱があっても無理して学校に行ったことがある」
「部活を一生懸命やるのは好きだからじゃなくて内申のためという同級生を見ると複雑な気持ちになる」
「内申点が高い子が必ずしも賢いわけじゃない。要領よく先生に気に入られた子が得をする制度だと思う」
「受験が終わったら内申書の呪縛から解放される。でも本当の学びって何だったんだろうと思う」
内申点が高い=学力が高いは大きな誤解 何が本当に評価されているのか
この問題の本質は、内申点が高いことと学力が高いことは必ずしも直結しないという事実にあります。
慶應義塾大学教授の中室牧子氏は、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン氏の研究を引用しながら、「学力テストの結果はIQ(認知能力)と非認知能力の両方で説明されるが、内申点に関してはIQよりも非認知能力で説明される割合の方が高い」と指摘しています。
つまり内申書が評価しているのは「問題を解く力」だけではなく、「毎日欠席せず登校する」「授業中に積極的に振る舞う」「提出物を期限内に出す」といった姿勢や継続力です。こうした能力に一定の教育的価値があることは否定できません。
しかし問題は、こうした行動が「本当にやりたいから」ではなく「内申書のため」という動機によって行われている点です。受験という外的プレッシャーによって促された行動は、表面的には正しくても、子どもの内側にある主体性とは深くつながっていません。
絶対評価が招いた「見せかけ評価」 教師の主観と基準の曖昧さ
内申書の問題をさらに複雑にしているのが、2001年度から導入された「絶対評価」制度です。それ以前の「相対評価」ではクラス内の順位によって評定が決まるため評価の客観性が保たれやすいとされていましたが、絶対評価では各教科の目標に対する個人の達成度で評価する仕組みに変わりました。
この転換により、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で評価されるようになりました。しかし「主体的に学習に取り組む態度」の評価が教師の判断に委ねられる部分が大きく、生徒は「本当に主体的である」のではなく「主体的に見える行動」をとることに傾く構造が生まれています。
絶対評価導入直後には、同一生徒の評定が相対評価から絶対評価への切り替えで急上昇する現象が全国で確認され、高校側から「評定の水準に困惑した」という声が上がりました。内申点は中学校ごとに評価基準が異なるため、学校間の公平性にも課題が残っています。
主体性を奪う抑圧的制度 評価のあり方の根本的な議論が必要
中村教授は「内申書には抑圧性をもった制度の側面があるということを理解しておく必要がある」と指摘しています。中室氏も「受験という仕組みがないと主体性のない子になる」ことへの懸念を認めながらも、「子どもたちの主体性を奪うことになるのは心配だ」と述べています。
教育経済学の研究では、主体性を奪うような教育プログラムは長期的に見てその成果に悪影響を与えることが示されています。内申書という制度が「見かけだけの取り組み」を優遇する構造になっているならば、それは教育本来の目的と真逆です。
どのような評価のあり方が本当に公平で子どもの成長につながるのか。一校一校で異なる内申点の基準、教師ごとに差が生まれる主観的な評価、そして受験のために演じることを強いる制度的な圧力。これらの問題を正面から受け止め、内申書のあり方について社会全体で継続的な議論を行うことが急務です。
まとめ
・全国約3000人の高校生調査で、84.7%が「内申書のために定期テストを頑張った」と回答
・「欠席しないようにした」73.7%、「積極的に発言するようにした」69.9%と、受験戦略として行動が変容
・内申点(非認知能力で説明される割合が大きい)と学力(認知能力で説明される割合が大きい)は必ずしも直結しない
・2001年導入の「絶対評価」で「見せかけの主体性」を演じることで高評価が得やすい構造が生まれた
・学校間での評価基準のばらつきが公平性の問題も引き起こしている
・子どもの主体性を奪う抑圧的な制度の側面を認識し、評価のあり方の継続的な議論が必要