2026-06-12 コメント投稿する ▼
台湾海峡通過、政府の「沈黙」は中国を利するか?
しかし、中国側が先に発表し、日本政府はそれを追認も否定もしないという奇妙な構図は、果たして日本の国益に資するのでしょうか。 本記事では、この「語らぬ抑止」とも言える政府の対応が、かえって中国の野心を助長しかねない危険性について解説します。 こうした国際社会の動きとは対照的に、日本政府は台湾海峡通過に関する情報を公表していません。
台湾海峡の現状と国際社会の動き
台湾海峡を巡る地政学的な緊張は、近年急速に高まっています。中国人民解放軍は、台湾周辺での大規模な軍事演習を常態化させており、2025年4月には台湾方面を管轄する東部戦区が、海上封鎖を想定した演習を実施するなど、その動きはますますエスカレートしています。このような状況下、アメリカ軍は「航行の自由」作戦を名目に、定期的に台湾海峡を通過する活動を続けています。さらに、イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランドといった国々も、自国の艦艇が台湾海峡を通過した事実を事後であっても公表しています。これらの国々の行動は、中国による一方的な力での現状変更の試みを断じて認めないという、断固たる政治的意思表示に他なりません。
日本政府の「語らぬ抑止」戦略とその実態
こうした国際社会の動きとは対照的に、日本政府は台湾海峡通過に関する情報を公表していません。外務省幹部の一人は、その理由について「大々的に喧伝しても中国を刺激するだけだ」と説明します。そして、「プロ対プロの世界なのだから、こちらのメッセージが伝わっていればいい」とも付け加えました。この発言の真意は、中国側が艦艇の通過を常に監視していることを踏まえ、日本が航行の自由の確保に関与するという「意志」は、公表せずとも中国側に伝達されている、という認識に基づいているものと思われます。つまり、あえて沈黙を守ることで、中国を不必要に刺激せず、かつ日本の立場は伝えている、という戦略です。
「語らぬ」ことのリスクと保守的視点
しかし、この「語らぬ抑止」とも言える政府の戦略には、重大なリスクが潜んでいます。まず、その「沈黙」は、抑止力として機能しないばかりか、かえって中国の誤った計算を誘発する可能性があります。透明性のない対応は、同盟国であるアメリカや、地域情勢を共有する友好国との連携においても、疑念や不信感を生じさせる懸念がないとは言えません。国家としての意思を明確に示さない態度は、自由で開かれたインド太平洋の維持を目指すという日本の外交方針にも反するのではないでしょうか。保守的な立場からは、台湾海峡における日本の防衛意識の高まりや、断固たる決意を、国際社会、そして中国に対しても、より明確に示すべきだと考えます。それを怠れば、「平和を愛する諸国民の正義と秩序に基づいた国際社会の確立」という日本国憲法の理念も、遠のいてしまうでしょう。
今後の見通しと提言
台湾有事への懸念が現実味を帯びる中、日本は国家としての意思を内外に明確に発信し、断固たる態度を示すことが不可欠です。偶発的な衝突や、中国による一方的な現状変更の試みを抑止するためには、防衛力の強化のみならず、粘り強い外交努力と、毅然とした情報発信が求められます。「プロ対プロ」という言葉で済ませるのではなく、日本の自由と安全を守るという強い意志を、より積極的に、そして戦略的に世界へ示すべき時です。そのためには、政府の情報公開のあり方そのものを見直す必要があるのではないでしょうか。「語らぬ抑止」は、もはや時代遅れであり、中国の野心を利する危険な戦略である可能性が高いのです。