2026-03-24 コメント投稿する ▼
売春防止法改正へ高市早苗首相が検討指示「買う側」罰則創設の是非
売春防止法の見直しに向けた議論が、いよいよ本格的に動き出しました。法務省は2026年3月24日、有識者らによる検討会の初会合を開き、70年前に制定された同法の改正に向けた議論を始めました。最大の論点は「買う側」への罰則を新たに設けるかどうかです。今秋の臨時国会か2027年の通常国会での法改正をめざしており、その行方に注目が集まっています。
70年間変わらなかった「歪んだ」法律の構造
売春防止法は1956年に制定され、売買春を禁じながらも、処罰の対象は「売る側」の勧誘行為などに限られてきました。「買う側」には一切の罰則がなく、このアンバランスな構造が長年にわたって問題視されてきました。売る側が公衆の面前で勧誘したり客待ちしたりする行為には「6か月以下の拘禁刑か2万円以下の罰金」が科せられますが、声をかける側の男性は何も問われません。
検察が受理した同法違反事件は、2022年が542件、2023年が653件、2024年が615件で、最も多いのは勧誘などの客待ちで各年とも300件前後にのぼります。そのほとんどは不起訴(起訴猶予)となっており、実態として女性が摘発の矢面に立たされている構図が浮き彫りになっています。
議論のきっかけとなったのは、2025年11月に発覚した衝撃的な事件です。タイ国籍の当時12歳の少女が東京都内の店で性的サービスをさせられていたことが明らかになり、国会でも売春防止法のあり方が問われました。高市早苗首相が衆院予算委員会でのやり取りの中で、平口洋法相に検討を指示したことが、今回の検討会設置へとつながりました。また2023年には悪質なホストクラブで若年女性が多額の借金を負い、売春に追い込まれる事例が社会問題となり、「性を売らざるを得ない女性だけが検挙されるゆがんだ構造がある」と改正を求める声が相次いでいました。
「買う側を罰し、売る側を守れ」支援団体が訴える理由
買う側への処罰を強く求めるのは、若年女性支援に取り組む団体などです。一般社団法人「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃氏は「売る側と買う側を同じように罰すれば平等になるわけではない」と指摘し、買う側を罰する一方で売る側は処罰の対象から外すべきだと主張しています。高校時代から街をさまよう日々を過ごし、買春目的の男性に声をかけられた自身の経験をもとに、若い女性が性売買へ誘導される現実を訴え続けてきました。就学や就業などの支援を充実させることで、女性が売春以外の選択肢を持てるようにする必要もあるとしています。
さらに、売春防止法だけでなく、風俗営業法もあわせて改正すべきだという意見もあります。路上での売買春を処罰しても、客が風俗店へ移るだけになりかねないとの懸念があるためです。女性の権利擁護に長年携わってきた角田由紀子弁護士も「女性の人権尊重をうたった女性支援法のもとで、国が十分な予算措置を行い、脱性売買を支援する仕組みをつくるべきだ」と訴えており、法改正と支援体制の整備をセットで進めることを求めています。
「女性だけが捕まって男性は何もないなんておかしい。買う方も同じように罰してほしい」
「ホストに借金させられて体を売らざるを得なくなった女の子が本当にかわいそう。法律を変えてほしい」
「買春を処罰すれば問題が解決するほど単純じゃない。当事者の声をちゃんと聞いてから決めてほしい」
「性風俗で働いている人全員が被害者みたいに扱われるのは違う。働き方の選択を尊重してほしい」
「70年間変わらなかった法律をやっと見直すのか。遅すぎるけど、慎重に議論してほしい」
規制強化が逆効果になるリスク、海外の教訓
一方、規制強化に反対する立場からも根拠のある声が上がっています。青山薫・神戸大学教授は「犯罪化を進めれば、そこで働き続ける必要のある人が人目につかない場所に追いやられ、より危険で不衛生な環境に置かれる。他国の調査や歴史もそう示している」と警告します。フランスが2016年に買春を犯罪化した後の調査では、調査に参加した女性のうち62.9%が生活条件が悪化し、78.2%が収入が減少、42.3%が暴力被害が増えたと回答しています。
規制強化が必ずしも当事者の安全を守ることにつながらないという、厳しい現実が海外の事例からも見えてきます。性風俗業で働く当事者からも「私たちの声が無視されている」という切実な訴えが出ています。規制が強化されれば性風俗業全体が「犯罪」のイメージと結びつき、そこで働く人への偏見や差別がさらに強まるとの懸念があります。「性風俗業で働くことも労働だという前提に立ち、労働環境の改善を進めることが必要だ」という意見も根強くあります。
ニュージーランドは2003年に売買春の非犯罪化に踏み切りました。その後の調査では業界の大幅な拡大は確認されず、改正前から働く人の64.8%が客を断りやすくなったと答えています。ただし35.3%はなお望まない客を受けざるを得なかったとも回答しており、非犯罪化だけで問題がすべて解決するわけではありません。
法改正の焦点と今後の課題
平口洋法相は国会で「国民の自由を不当に制限しないか十分な検討が必要」と答弁しており、買春そのものの処罰には慎重な姿勢を示しています。法務省内では、売る側の勧誘などと同様に、買う側が公衆の面前で声をかける行為を罰する案が浮上していますが、それが実際の抑止力になるかどうかは未知数です。憲法学の観点からも「憲法13条は個人の尊重を定めており、性行為はその私的領域の中核にある。処罰範囲を広げるには慎重な議論が必要だ」との指摘があります。
今回の検討会は、早稲田大学大学院の北川佳世子教授を座長に、刑法学者や法曹関係者など11人で構成されています。今後は当事者の声も踏まえながら議論を深める方針ですが、スウェーデンやフランスの「北欧モデル」、ニュージーランドの非犯罪化方式など、海外の事例を見ても最善策は一様ではありません。70年間変わらなかった売春防止法が、どのような形で生まれ変わるのか。この議論は女性の人権や個人の自由、そして社会のあり方をめぐる根本的な問いを私たちに突きつけています。当事者を含む幅広い声を丁寧に聞きながら、実効性ある改正につなげられるかどうかが問われています。
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まとめ
- 法務省は2026年3月24日、売春防止法見直しの検討会初会合を開催。最大の焦点は「買う側」への罰則新設
- 現行法は1956年制定。売る側の客待ち・勧誘行為は処罰対象だが、買う側には罰則なし
- 2025年11月に12歳少女が性的サービスを強制させられた事件が議論の契機となり、高市早苗首相が法務省に検討を指示
- 支援団体は「買う側を罰し、売る側を非処罰化すべき」と主張。風俗営業法との一体改正も求める
- 一方、規制強化に反対する立場からは「犯罪化で当事者がより危険な環境に追いやられる」と警告
- フランスで買春を犯罪化した後、当事者の生活条件が悪化したとのデータがある
- 今秋の臨時国会か2027年通常国会での法改正をめざす。11人の有識者が議論を担う