2025-05-09 コメント投稿する ▼
下請法改正で中小企業支援強化—価格転嫁の課題と解決策を議論
下請法改正で中小企業の価格転嫁を支援—政府、取引適正化を強化へ
2025年5月、国会で下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)の改正案が審議され、価格転嫁の促進や取引の適正化を目指した議論が行われた。国民民主党の礒﨑哲史議員は、中小企業がコスト増を適切に価格へ反映できるようにするための対策の効果や課題、規制対象の拡大理由、従業員基準導入の背景について政府に質問を投げかけた。
これに対し、伊藤大臣と武藤大臣は、それぞれの所管する施策について説明し、運送委託の追加理由や従業員基準導入の必要性、価格転嫁対策の現状と今後の課題に言及した。
価格転嫁の現状と課題
政府はこれまで、価格転嫁の実現に向けた様々な取り組みを進めてきた。たとえば「労務費の適切な転嫁を促進するための価格交渉指針」を策定し、価格交渉促進月間を設けるなどして、取引先との価格交渉を後押ししてきた。
しかし、実際には価格転嫁率は依然として低く、特に下請事業者の中でもサプライチェーンの末端ほど転嫁が進んでいないのが現状だ。政府の調査によれば、価格交渉は86.4%の企業で行われたものの、実際に価格に反映されたのは49.7%にとどまっている。特に労務費に関しては44.7%が転嫁できた一方で、全く転嫁できなかった企業も約2割にのぼる。
この現状を踏まえ、武藤経済産業大臣は「中小企業の価格転嫁が進まない現実は、取引環境の改善がまだまだ不十分であることを示している」と強調し、引き続き改善に取り組む姿勢を示した。
規制対象の拡大と従業員基準の導入
下請法改正案では、これまで規制対象外だった「運送委託契約」も新たに対象に加える方針が示された。これは、物流分野で下請事業者が不当な取引条件を押し付けられる事例が多発していることに対応するものだ。特に、荷主企業からの不当な価格引き下げや無理な納期要求が問題視されている。
また、従来の下請法は「資本金」に基づいて適用事業者を規定していたが、近年の事業環境の変化により資本金規模だけでは実態を反映しないケースが増加。これに対応するため、従業員数に基づく基準が新たに導入されることとなった。伊藤大臣は「資本金基準だけでは規制を逃れる事業者が存在するため、従業員数も基準に加えることで法の実効性を高める」と説明した。
報復措置への対応と省庁間連携
下請事業者が価格転嫁を申し入れる際、報復を恐れて交渉を躊躇するケースが依然として見られる。磯崎議員は、このような懸念を解消するための実態調査や情報共有の強化を求めた。
これに対し、武藤大臣は「各省庁の知見を活用し、取引の適正化を進める」と述べ、公正取引委員会と中小企業庁が連携して下請法違反事例の情報を共有し、違反企業への指導を強化していく方針を示した。また、「下請法事件連絡会議」を試行的に設置し、関係省庁間で情報を共有する仕組みを導入したことも明らかにした。
今後の展望
下請法改正は、中小企業の適正取引と賃上げ促進を実現するための重要なステップとなる。政府は改正法の成立後、価格転嫁を阻害する商慣習の見直しや、事業者への指導・助言を強化し、取引環境の改善を図る方針だ。
特に、価格転嫁が進まない事業者への支援や、実効性のある施策の展開が鍵となる。磯崎議員は「中小企業が安心して価格転嫁を申し入れられる環境整備が重要だ」と強調し、政府にさらなる取り組みを求めた。
この改正により、中小企業が収益を確保し、持続的な賃上げが実現されることが期待されている。