農水省元職員のアスベスト死亡が公務災害認定——全国水利施設に潜む石綿リスクへの警鐘

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農水省元職員のアスベスト死亡が公務災害認定——全国水利施設に潜む石綿リスクへの警鐘

農林水産省の元職員の男性(奈良市)が中皮腫で死亡したのは、滋賀県長浜市の農業用揚水機場「余呉湖補給揚水機場」で吸い込んだアスベスト(石綿)が原因だとして、公務員の労働災害にあたる公務災害に認定されました。農水省の担当者が2026年5月19日、遺族に認定を伝えました。専門家によれば、農業用の水利関連施設で石綿による公務災害が認定されることは非常に珍しい事例です。全国に存在する揚水・排水施設にも同様の石綿使用の可能性があるとして、支援団体は元職員や遺族に対し、勤務先の石綿使用状況を改めて調べるよう強く呼びかけています。退職後に発症するケースが多く、潜在的な被害者がまだ表に出ていない可能性があります。

60歳で命を奪われた元職員——公務中の石綿ばく露が半世紀後に発覚


亡くなった男性は、琵琶湖の水を約50メートル高い余呉湖にくみ上げるポンプが設置された「余呉湖補給揚水機場」(滋賀県長浜市)で勤務していました。この揚水機場は国営湖北農業水利事業に伴い1969年に完成し、男性は建設工事の監督と完成後の施設管理に1974年まで携わっていました。

石綿は、防音や耐熱を目的として、ポンプを駆動するディーゼルエンジンに給気する部屋の床・壁・天井、および排気する煙道に吹き付けられていました。男性は日常的にこれらの石綿に囲まれた環境で業務をこなしていたことになります。

その後、農水省を定年退職した直後に中皮腫を発症し、2009年に60歳という若さで亡くなりました。一緒に働いていた元同僚が遺族の依頼で調査したところ、2008年に揚水機場の石綿が除去された記録が判明しました。遺族は2024年、農水省を通じて人事院に公務災害認定を求めており、2026年5月19日、農水省の担当者から公式に認定が伝えられました。

夫が勤めていた施設に石綿があったなんて、当時は誰も教えてくれなかった。何十年も経って初めてわかった

中皮腫の恐怖——最長50年という沈黙の潜伏期間


中皮腫(ちゅうひしゅ)とは、肺を包む胸膜、腹部臓器を覆う腹膜などに発生する悪性腫瘍(がん)です。アスベストを吸い込んでから発症するまでの潜伏期間は20年から50年と非常に長く、多くの場合は退職後、あるいは人生の晩年になって初めて症状が表れます。

中皮腫による国内の年間死亡者数は2021年時点で1,635人にのぼり、今後2030年から2035年にかけてピークを迎えると予測されています。1970年代から1980年代にかけて建材などに大量に使用されたアスベストが、その長い潜伏期間を経て、今まさに深刻な被害をもたらし続けているのです。

40年以上も前に吸ったものが、退職後に命を奪う。こんな理不尽なことが今も続いているのに、なぜ国の対応は遅いのか

アスベストの使用は日本では2005年に全面禁止となりましたが、1969年竣工の余呉湖補給揚水機場のように、今も全国の公共施設にアスベストが残存している可能性があります。現役時代に知らされないまま石綿にさらされた元公務員や元労働者が、退職後に同様の被害を受けているケースは、まだ表面化していないものも相当数あると考えられます。

農業水利施設は「盲点」——全国の揚水機場に潜在リスク


今回の事例が注目されるのは、農業用の水利関連施設に勤務した職員が石綿による公務災害を認められることが極めて珍しいためです。石綿被害のリスクが高い職種として、建設業や造船業などが知られてきましたが、農業水利施設という分野はこれまでほとんど注目されてきませんでした。

支援にあたった関西労働者安全センター(大阪市)の酒井恭輔事務局次長は「石綿は揚水機場の建設工事や、ポンプの振動で飛散したと考えられる。中皮腫や肺がんにかかったら、勤務した建物の石綿の有無を調べた方がよい」と注意を呼びかけています。

農業用の施設だから大丈夫だろうと思っていた。でも、石綿は建物の種類を選ばない。気づいたときには手遅れになる

揚水や排水のためにポンプを設置した施設は全国各地に存在します。農水省の水利施設と同様に石綿が使われた可能性があるとして、今後は農業水利分野の施設全体にわたる実態調査が急務です。

なお、2026年1月1日からはボイラーや配管、煙道などの工作物においても、解体・改修工事前に有資格者によるアスベスト事前調査を行うことが法令で義務化されています。この新たな規制は今回のような水利施設のポンプ関連設備にも適用される可能性があり、施設管理者は早急な対応が求められます。

遺族の14年の闘い——公務災害認定の意義と残る課題


男性が亡くなったのは2009年ですが、遺族が公務災害認定を求めて動き出したのは2024年のことです。認定まで遺族がたどった道のりは、石綿被害が持つ最大の問題点を浮き彫りにしています。それは、被害の発生から認定までに膨大な時間と労力がかかるという現実です。

職場で何があったか、退職後に自分で調べ直さなければならなかった。こういう人がまだたくさんいるはずです

今回の認定は、農業水利分野で初めてとされる極めて珍しい事例です。同様の施設で働いた経験を持つ元職員、あるいはその遺族が公務災害の認定を受けられる可能性がある、という先例としての意義は小さくありません。中皮腫や肺がんを発症した方、あるいは亡くなった方の遺族は、勤務先の施設でアスベストが使用されていなかったかどうかを改めて確認することが重要です。政府は今回の事例をきっかけに、農業水利施設全体の石綿実態調査と、被害者への積極的な周知・支援体制の整備を急ぐべきです。

まとめ


  • 農水省の元職員(奈良市)が滋賀県長浜市の「余呉湖補給揚水機場」でのアスベストばく露により中皮腫を発症し、2009年に60歳で死亡。農水省が2026年5月19日、公務災害と認定したことを遺族に伝えた。
  • 石綿はポンプ駆動ディーゼルエンジンの給気室の床・壁・天井・煙道に吹き付けられており、男性は1969年〜1974年にかけて建設監督・施設管理業務で日常的にさらされていた。
  • 農業用水利関連施設での石綿による公務災害認定は極めて珍しい事例。全国の揚水・排水施設にも同様の石綿残存リスクがある。
  • 中皮腫の潜伏期間は20〜50年と非常に長く、退職後に発症するケースが多い。国内の中皮腫年間死亡者は2021年時点で1,635人にのぼり、今後2030〜2035年にかけてさらに増加する見通し。
  • 2026年1月1日からボイラー・煙道などの工作物にもアスベスト事前調査が義務化。水利施設の施設管理者にも影響が及ぶ可能性がある。
  • 関西労働者安全センターは「中皮腫や肺がんにかかったら、勤務施設の石綿使用状況を調べるべき」と呼びかけており、政府に実態調査と周知支援の強化を求める声が上がっている。

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2026-05-20 10:46:15(植村)

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