2026-05-23 コメント投稿する ▼
【物価高対策】地域商品券、届かぬ声も…「デジタル回避」は高齢者への配慮か、それとも時代遅れか
特に、セキュリティ上の懸念から、商品券の配布方法を手渡しに限定する自治体がある一方で、迅速な配布のためにデジタル技術の活用を進める自治体もあり、対応が大きく分かれているのが現状です。 これらの自治体では、住民の安全確保や、デジタル機器に不慣れな層への配慮が、配布方法の選択において重視されていると言えるでしょう。 * 物価高対策として地域商品券が配布されているが、配布方法を巡り対応が分かれている。
商品券配布の現場
手渡し限定のジレンマ
和歌山県和歌山市では、3月中旬から約35万人の市民全員を対象に、1人あたり6000円分の地域商品券の配布が進められています。この商品券は申し込み不要で、届いたその日から市内の登録店舗で利用できるため、家計の助けになると期待されています。しかし、5月上旬には「なかなか商品券が届かない。周りでも届いた人が少なく、利用期限に間に合うのか心配だ」といった声が市民から上がっていました。
この配布の遅れの一因と考えられているのが、配布方法の原則が「記録付きの対面配達」となっていることです。不在だった場合に玄関先に商品を置く「置き配」や、宅配ボックスの利用は認められていません。そのため、不在票が入った場合に再配達が必要となり、全世帯への配布完了までに当初から「3カ月程度かかる」と見込まれていました。
和歌山市がこのような慎重な姿勢をとる背景には、過去の苦い経験があります。新型コロナウイルスの流行禍で配布された際、郵送された商品券がポストから盗まれ、少なくとも約50万円相当が不正に使用される事件が発生しました。この再発防止のため、今回は対面での受け取りを原則とし、スマートフォンアプリなどを用いた電子的な配布方法の導入も見送られました。これは、スマートフォンを所有していない高齢者が多いという、いわゆる「デジタルディバイド(情報格差)」への配慮からでした。
宝塚市(兵庫県)でも、同様に過去の商品券盗難リスクを考慮し、配布は手渡しに限定されました。また、以前から高齢者を中心に「デジタルでの受け取りは使いにくい」という意見があったことも、紙媒体での配布を選択した理由です。和歌山市と同様に、宝塚市でも全戸配布には約3カ月を要すると見られています。これらの自治体では、住民の安全確保や、デジタル機器に不慣れな層への配慮が、配布方法の選択において重視されていると言えるでしょう。
デジタル化の波と「壁
一方で、デジタル化に積極的な姿勢を示す自治体も存在します。全国でも有数の人口を抱える横浜市は、4月下旬に約190万世帯に対し、電子クーポンや商品券の受け取りに必要な情報が記載された「2次元コード付きはがき」を郵送しました。このはがきは、約1週間で市内全域に届けられました。
横浜市の対応は、迅速性を重視するものです。さらに、クーポン等を受け取る際には、個人情報に基づいたパスワードの入力を求めることで、商品券の盗難や不正利用を防止する仕組みを導入しています。こうしたデジタル技術の活用は、配布にかかる時間とコストを大幅に削減できる可能性があります。また、スマートフォンを所有していない市民のために、各区役所に専用の相談窓口を設置し、デジタルデバイドへの対策も講じています。
しかし、横浜市の事例は、あくまでもデジタル化を推進する自治体の一例です。全国には、和歌山市や宝塚市のように、デジタル化よりも、まずは確実かつ安全な配布を優先する自治体も少なくありません。こうした対応の違いは、物価高対策という本来の目的達成に向けた、各自治体の優先順位や、住民層の実情に対する捉え方の違いを浮き彫りにしています。
「使えない」高齢者と「届かない」市民
「高齢者はスマートフォンが使えない」という言葉を耳にすることは少なくありません。しかし、この言葉が、あたかも全ての高齢者がデジタル技術から遠い存在であるかのような、一面的な見方を助長している側面はないでしょうか。もちろん、スマートフォンを使いこなすことに不安を感じる高齢者が多いのは事実ですが、一方で、積極的にスマートフォンを活用している高齢者も増えています。
今回の商品券配布における「デジタル回避」の判断は、こうした多様な高齢者の実情を十分に反映しているとは言えません。スマートフォンを持たない、あるいは利用に不慣れな方にとっては、紙の商品券や手渡しでの受け取りは、安心感につながる側面もあります。しかし、その安心感が、結果的に「商品券がなかなか届かない」という状況を生み出し、本来支援されるべき市民が、支援を十分に受けられない可能性もはらんでいます。
配布の遅れは、商品券の利用期間にも影響を与えかねません。「大型連休中に使いたかった」という和歌山市の男性の声は、こうしたジレンマを象徴しています。物価高対策として実施されている給付金が、その配布方法の議論に手間取り、本来の目的である迅速な家計支援から遅れてしまう事態は、避けなければなりません。
専門家の見解と今後の課題
専門家は、各自治体の対応が分かれている状況について、「検証が不可欠」との認識を示しています。デジタル化を進めることは、効率性や迅速性の観点から大きなメリットがありますが、同時に、情報格差の問題を考慮する必要があります。特に、高齢者やデジタル機器に不慣れな人々が、支援から取り残されないような配慮が不可欠です。
自治体には、単にデジタル技術を導入するだけでなく、住民一人ひとりの状況に合わせた丁寧なサポート体制を構築することが求められています。具体的には、分かりやすい説明会の実施や、相談窓口の拡充などが考えられます。
今後の課題は、効率性、公平性、セキュリティ、そして住民の利便性といった、時に相反する要素のバランスをどのように取るか、という点にあります。今回のような物価高対策だけでなく、行政サービス全般において、デジタル化のメリットを最大限に活かしつつ、誰もが取り残されないような仕組みづくりを、継続的に検証し、改善していく努力が、私たちには求められていると言えるでしょう。
まとめ
- 物価高対策として地域商品券が配布されているが、配布方法を巡り対応が分かれている。
- 和歌山市や宝塚市では、過去の盗難・不正利用事件を受け、セキュリティを重視し手渡し配布を原則としているが、配布に時間がかかっている。
- 横浜市では、迅速な配布のためデジタル技術(2次元コード付きはがき)を活用し、パスワード設定でセキュリティを確保している。
- 「高齢者はスマホが使えない」という前提だけでデジタル化を避けることは、デジタルに不慣れな層への配慮となる一方、配布の遅れや、デジタル活用層との格差を生む可能性もある。
- 専門家は、各自治体の対応について慎重な検証が必要であり、効率性、公平性、セキュリティ、利便性のバランスを取りながら、住民に合わせた丁寧なフォローアップ体制の構築が重要だと指摘している。