2026-06-18 コメント投稿する ▼
ナフサ危機"足りているのに届かない" 塗装業倒産相次ぐ目詰まりの真実
中東情勢の急変によるホルムズ海峡封鎖から浮上したナフサ(粗製ガソリン)不足が、日本の産業界を直撃しています。政府は「総量として足りている」と繰り返すものの、実際には現場でシンナーや建材が届かず、塗装業界では2026年の1〜5月に80件の倒産が発生し、過去最多を更新するペースです。「足りているのに届かない」という構造的な目詰まりと、中東への過度な依存が招いた危機の実態を、塗装業界関係者やエコノミストらの証言をもとに解説します。
シンナーが「通常どおり」届くのはわずか2.7% 塗装業界に迫る倒産危機
中東情勢の急変がきっかけとなり、日本を直撃したのが「ナフサ不足問題」です。ナフサとは、原油を精製する過程で得られる粗製ガソリンのことで、プラスチック、塗料、シンナー、合成ゴム、医薬品など、現代社会を支えるほぼすべての化学製品の出発点となる重要な原料です。帝国データバンクの試算では、国内製造業の約3割がナフサ関連製品の調達リスクに直面するとされています。
最も深刻な打撃を受けているのが塗装業界です。日本塗装工業会(日塗装)会長の若宮昇平氏は「このままでは倒産が相次ぐ事態になりかねない」と強い危機感を示しています。実際、帝国データバンクによれば、2026年1〜5月の「塗装・防水工事」の倒産件数は80件で、過去最多に達する可能性があります。
同会が2026年4月上旬に実施した緊急アンケートでは、シンナーが「通常どおり」入手できると答えた会員はわずか2.7%でした。シンナーは価格が75〜80%上昇しており、1缶4000円程度だったものが1万5000円を超えるケースも出ています。さらに既に契約済みの工事では価格転嫁も難しく、人件費を削らざるを得ない中小事業者が続出しています。
「資材が入らず現場を止めざるを得ない。見積価格が変動しすぎて契約ができない状態が続いている」
「材料が手に入らないだけでなく、連日のように値上げの通達が来る。経営がもう限界に近い」
「政府が足りていると言っても、うちには何も届いていない。現場と政府の感覚にはとてつもない差がある」
「カルビーのポテチが白黒になった時に初めてナフサ問題を知った。でも現場の中小企業は何ヶ月も前から悲鳴を上げていた」
「ナフサ危機は今だけの問題じゃない。中東への依存を何十年も放置してきた結果がこれだ」
なぜ「足りているのに届かない」のか 目詰まりの構造
政府は「日本全体として必要な量は確保できている」と繰り返し発表してきました。しかし現場では実際に品物が届かない。この矛盾はどこから来るのでしょうか。
ナフサ調達などの実務経験もある炭化水素リサーチ株式会社代表の柳本浩希氏は、その原因が「石油化学産業の長く複雑なサプライチェーン(供給網)」にあると指摘します。原油をナフサクラッカー(大型分解装置)で処理して得られる基礎化学品が、さらに川中(加工品メーカー)を経て川下(現場・消費者)に届くまでには、何十もの工程と事業者が介在します。
この多段階の供給網で「目詰まり」が起きるのは、各段階での価格転嫁のズレによります。川上(原料メーカー)が高値で仕入れれば川中は赤字回避のために減産し、川下の現場では「価格が上がる前に確保したい」という防衛的な注文が急増します。実需以上の注文が膨らむ一方、購買力の低い中小企業には物が回らない。これが「総量として足りているのに届かない」という構造的矛盾の正体です。
さらに技術的な問題もあります。ナフサから生成されるトルエン・キシレン(シンナーや溶剤の主成分)は、全生成物のわずか7%程度です。この割合は装置を変えても簡単には変えられないため、需要が高くても増産できないのです。
住宅・食品・医療まで波及 経済への多面的影響
ナフサ不足の影響は塗装業界にとどまりません。大手住設機器メーカーのTOTO・LIXIL・クリナップなどが2026年4月にユニットバスの新規受注を一斉停止しました。断熱材メーカーも40%の大幅値上げを実施し、一軒家の建築費用が最大約50万円上昇するケースが出ています。
食品業界では、カルビーが2026年5月12日にポテトチップスなど主力14品のパッケージを白黒2色に変更すると発表し、注目を集めました。ナフサ由来のグラビアインク・溶剤・フィルムの調達が不安定化したためです。
第一生命経済研究所の試算では、今回の問題が消費者物価を年間0.6〜0.8%程度押し上げると予測されています。すでに物価高が続く中での追い打ちであり、家計への負担は深刻です。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「今回の危機は在庫が減るにつれてじわじわと広がる性質を持っており、企業の防衛的な減産が続けば品不足や価格上昇は徐々に生活の身近な領域に及ぶ」と警告しています。
中東依存80%のツケ 今すぐサプライチェーン改革を
日本のナフサ供給は約8割が中東由来とされており、今回の問題はこの構造的リスクが一気に顕在化した形です。2026年5月に旭化成・三井化学・三菱ケミカルの3社は西日本エチレン製造設備の統合を発表し、将来的に生産能力を30%削減する方針に合意するなど、業界の構造再編が加速しています。
木内氏は今回の危機を、中東依存からの脱却とサプライチェーンの可視化につなげるべきだと訴えます。政府は米国・オーストラリア・インドなどからの代替調達を急ぎ、2026年5月時点で代替調達率は約6割に達しましたが、これはあくまで緊急対応です。平時から地政学リスクを織り込んだ調達ルートの多元化と、サプライチェーン全体を見える化する官民共通の仕組みの構築が急務です。数十年にわたり中東依存を放置してきたツケは、いま中小企業の倒産というかたちで現場に押しつけられています。
まとめ
- 中東情勢の急変によるホルムズ海峡封鎖からナフサ不足が発生し、国内製造業の約3割が影響を受ける可能性
- 日本塗装工業会の緊急アンケートで、シンナーが「通常どおり」入手できると答えた会員はわずか2.7%
- シンナーは最大80%値上がりし、塗装・防水工事の倒産件数は2026年1〜5月で80件と過去最多ペース
- 「足りているのに届かない」目詰まりの原因はサプライチェーン各段階の価格転嫁のズレと、トルエン・キシレンの生成量の制約
- ユニットバス受注停止・断熱材40%値上げ・カルビーの白黒パッケージ化など多業種に波及
- 第一生命経済研究所は消費者物価を年間0.6〜0.8%押し上げると予測
- 中東依存からの脱却と、サプライチェーンの見える化が中長期的な課題
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