2026-05-16 コメント投稿する ▼
埼玉県がABW導入でオフィス改革 固定席廃止と2800万円の費用対効果を問う
埼玉県企画財政部は2026年3月末、業務の内容に応じて職員が自分で働く場所を選べる「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」を導入しました。4つの課の職員が一つのオフィスを共有し、集中作業用の個室ブースや複数人での会話ができるオープンスペースなど4種類のエリアを活用できる仕組みです。費用は2025年度予算の執行残額から約2800万円を充て、文具大手のコクヨがデザインを担当しました。「場所を自由に選べるようになった」と歓迎する声がある一方、新任職員から顔と名前を覚えにくいという戸惑いの声も上がっています。県は今後、他の課や部への拡大を目指しています。
ABWとは何か 固定席を廃止する新しい働き方
ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)とは、仕事の内容に応じて働く場所を自分で選ぶ働き方のことです。「集中して資料を作りたい」ときは防音の個室へ、「同僚とアイデアを出し合いたい」ときはオープンな共有スペースへと、業務の「活動(アクティビティ)」に合わせて移動しながら仕事を進めます。
全員に固定席を割り当てる従来型の働き方とは、大きく考え方が異なります。フリーアドレス(社内で席を固定しない制度)が主にオフィス内での座席の自由化にとどまるのに対し、ABWはオフィス内の複数エリアを業務の目的ごとに使い分け、テレワークや外出先での業務も含めた「場所と時間を自分でデザインする働き方」として位置づけられています。
この考え方はオランダで生まれ、民間企業を中心に世界へと広まりました。日本では総務省が2019年から中央省庁での実証実験を始め、職員間のコミュニケーション活性化や作業効率の向上効果が一定程度確認されています。香川県三豊市や熊本市など複数の自治体でも、ABW導入によって情報共有が進み、業務効率が上がったとの報告が相次いでいます。
4つのエリアとQRコード 埼玉県の新オフィスの仕組み
埼玉県企画財政部が2026年3月末に完成させた新オフィスは、四つのエリアに分かれています。窓際の席や三角形の机など多彩な執務スペースが並ぶ「コネクトエリア」、自動販売機が置かれ複数人での会話もできる「バズエリア」、幹部が集まる「アンカーエリア」、そして防音性の高い個室ブースが設けられた「フォーカスエリア」の4種類です。
職員はパソコンやスマートフォンで席を予約し、着席時に机や椅子に貼られたQRコードを読み込みます。誰がどの席にいるかは、室内のモニターや各自のパソコンからリアルタイムで確認できます。4つの課の職員が同じオフィスを共有することで、これまで課の壁でなかなか接点がなかった職員同士が自然に交流できる環境づくりも狙いとなっています。
デザインとレイアウトは文具大手のコクヨが担当しました。同社はこれまでに総務省行政管理局をはじめ、熊本市や香川県三豊市など複数の自治体のオフィス改革を支援してきた実績があります。行政機関でのABW導入にあたっては、ペーパーレス化やICTツールの整備との組み合わせが効果を高める鍵とされており、空間だけを変えても成果には限界があるとも指摘されています。
職員の本音 「柔軟で快適」と「人の顔が覚えられない」の両面
新オフィスへの移行後、現場の職員からはさまざまな声が上がっています。
「好きな場所で仕事できるのは助かる。集中したいときにフォーカスエリアに移れるのがいい」
「他の課の人と隣になることが増えて、自然と会話が生まれてきたのは新鮮だった」
「モニターで誰がどこにいるかわかるから、思ったより混乱は少なくて助かっています」
「新人のうちは先輩の場所を毎回探さないといけないのが少し不安で、心細くなる」
「顔と名前がまだ一致しない人が多くて、慣れるまでもう少し時間がかかりそうです」
歓迎の声がある一方で、特に新任職員からは戸惑いの声も聞かれます。固定席なら毎日同じ隣人と自然に顔を合わせられますが、座席が毎日変わるABWでは、人間関係を築くための別の工夫が必要です。県側は新任者へのサポートを行う方針を示しており、定着に向けた対応が引き続き求められています。
2800万円の費用投入 全庁展開に向けた展望と検証の必要性
今回のオフィス整備には、2025年度予算の執行残額から約2800万円が充てられました。埼玉県の2026年度の歳入と歳出の差額(不足額)は一般会計ベースで1558億円と過去最大規模となる見通しで、財政環境は厳しさを増しています。こうした状況の中での設備投資だけに、費用対効果の検証と公表が今後の重要な課題となります。
担当者は「県民など来庁者も利便性を享受できるような環境を目指したい」と話しており、今後は他の課や部へも広げていく方針です。ただしABWの効果を正確に測るためには、職員の生産性や満足度、来庁者の利便性向上といった数値目標(KPIにあたる指標)を事前に設定し、一定期間後に結果を検証・公表する仕組みが欠かせません。税負担で整備された設備である以上、「働き方改革」の名目だけに頼ることなく、成果を数字で示す説明責任が強く求められます。
まとめ
- 埼玉県企画財政部が2026年3月末、業務内容に応じて働く場所を選べる「ABW」を導入した
- オフィスは「コネクトエリア」「バズエリア」「アンカーエリア」「フォーカスエリア」の4種類に分かれる
- 席の予約・確認はQRコードとモニターで管理し、4課の職員が同一オフィスを共有する
- デザインは文具大手のコクヨが担当、整備費用は約2800万円(2025年度予算の執行残額)
- 「柔軟な働き方が実現した」という歓迎の声がある一方、新任者から「顔と名前を覚えにくい」との不安も
- 今後の全庁展開に向けては費用対効果の数値的検証と公表が不可欠
- 埼玉県の2026年度予算の不足額は過去最大の1558億円で、財政の厳しさの中での支出として注目される