2026-06-25 コメント投稿する ▼
HPVワクチン男性接種「みんなの課題」 音喜多氏、費用対効果の壁に挑む
音喜多駿氏は、参議院議員の三原じゅん子氏との対談を機に、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの男性への定期接種化の重要性を改めて強調した。 三原議員はHPVワクチンの普及をライフワークとしており、特に男性への定期接種化に向けた取り組みに注力している。 2024年、国の審議会で「費用対効果」を理由に、男性へのHPVワクチン定期接種は見送られることになった。
HPVワクチンの現状と課題
音喜多氏は、自身のブログで「創発チャンネル」の収録として三原じゅん子参議院議員とHPVワクチンについて語った内容を公開した。三原議員はHPVワクチンの普及をライフワークとしており、特に男性への定期接種化に向けた取り組みに注力している。音喜多氏自身も2017年にブログで男性議員としてのHPVワクチン接種体験を公表し、その後も継続的にこのテーマを取り上げてきた。
HPVは、子宮頸がんの原因となるだけでなく、男性も中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマなどのリスクを負うウイルスだ。子宮頸がんは年間約3,000人の命を奪う病気であり、ワクチンと検診で効果的な予防が可能であるにもかかわらず、日本では過去に一部の不正確な報道や風評被害の影響で、接種率が1%を下回るまで落ち込んだ経緯がある。
近年、積極的勧奨の再開やキャッチアップ接種の開始といった前進は見られたものの、音喜多氏は、さらなる課題として男性への定期接種化を挙げている。
男性への定期接種化、なぜ今か
音喜多氏が男性への定期接種化を強く主張する背景には、HPVが性別を問わず感染するウイルスであるという認識がある。男性自身ががんなどのリスクにさらされるだけでなく、パートナーへの感染を防ぐことも、社会全体の感染連鎖を断ち切る上で極めて重要だと指摘する。
「子宮頸がんの予防は決して『女性だけの課題』ではなく、まさに男女双方で取り組むべき『みんなの課題』なのではないでしょうか」と音喜多氏は訴える。男性への接種は、個人の健康を守るだけでなく、公衆衛生の観点からも社会全体への貢献につながるという考えだ。
しかし、この男性への定期接種化には大きな壁が存在する。2024年、国の審議会で「費用対効果」を理由に、男性へのHPVワクチン定期接種は見送られることになった。限られた財源の中で、公的な医療資源をどう配分するかという議論は避けられないが、音喜多氏は、この「費用対効果」の評価自体に疑問を呈している。
「費用対効果」の壁とその検証
国が費用対効果を判断する際の指標の一つに、ICER(増分費用効果比、1QALYあたりいくらかかるか)がある。日本では、おおむね500万円前後が一つの目安とされている。音喜多氏が引用する2024年3月の小委員会での推計によると、男性自身の肛門がんや尖圭コンジローマの予防のみに限定して計算した場合、ICERは8,000万円を超える水準となる。この数字だけを見れば、「割に合わない」という判断になりかねない。
しかし、音喜多氏は、ここに中咽頭がんや陰茎がんの予防効果を加えると、ICERは4,000万円台まで下がることを指摘する。さらに、男性接種がもたらすパートナー(女性)の子宮頸がん予防という間接的な効果まで考慮に入れると、条件次第では400万円台、つまり目安とされる範囲内に収まる可能性も示唆されている。
この試算が示すように、何を便益として勘定に入れるかによって、費用対効果の評価は大きく変動する。音喜多氏が現状の「費用対効果での見送り」を鵜呑みにできないと考えるのは、まさにこの点にある。
さらに、推計の前提条件についても、音喜多氏は複数の論点を挙げている。一つは「分析の立場」の違いだ。現在の推計は医療費のみを考慮する「公的医療の立場」が基本だが、ワクチン接種によって防げる労働損失、つまり働き盛りの世代が病気によって失う生産性まで含めた「社会の立場」で評価すれば、便益はさらに大きく評価されるはずだ。しかし、この「社会の立場」での評価は、手法が確立されていないことを理由に、十分に織り込まれていないのが現状だという。
もう一つの論点は「モデルの精度」だ。集団免疫の効果を捉えるには本来、ダイナミックモデルという手法が望ましいとされるが、国内では必要なデータが不足しているため、簡易な手法での推計にならざるを得ない。特に、男性接種による女性への予防効果の部分は、推計に頼る幅が大きいのが実情だ。つまり、現在示されている数字は確定値ではなく、前提条件次第で変動するものであることを、音喜多氏は強調している。
国際標準に追いつく国内の動き
音喜多氏は、諸外国の動向にも目を向けるよう促す。アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、オーストラリアといった主要国では、すでに男女中立のワクチン接種(ジェンダーニュートラル・ワクチネーション)が公費で導入されており、多くの国で9価ワクチンが推奨され、原則無料で提供されている。男性を対象に含めることが、もはや国際的なスタンダードとなっているのだ。
国内においても、動きは着実に進んでいる。2025年4月からは、東京都の港区、渋谷区、世田谷区など一部の自治体が独自に男性へのHPVワクチン接種助成を開始した。また、同年の8月には、9価ワクチンが男性への使用についても薬事承認された。自治体レベルでの取り組みや、承認の進展は、まさに国際的な流れに沿ったものと言える。
音喜多氏は、「自治体と薬事は着実に前へ進んでいる。あとは国の定期接種化が、この流れに追いつけるかどうかです」と述べ、国の政策決定の遅れを懸念している。
過去、日本はHPVワクチンを巡って、科学的根拠よりも世論や報道の空気に流された結果、防げたはずの命が失われ続けたという苦い経験を持つ。音喜多氏は、同じ轍を踏むわけにはいかないと警鐘を鳴らす。「費用対効果は前提条件次第で変わるものです。だからこそ、推計の方法そのものを問い直し、より精緻なエビデンスに基づいて再検討する。その作業を、政治がしっかり後押ししていくべきだと考えています」と、政治の積極的な関与を求めている。
三原氏のような、党派を超えてこのテーマに本気で取り組む方々と力を合わせながら、音喜多氏自身も引き続き発信を続けていくという。収録された対談の公開が、HPVワクチン男性接種化に向けた議論をさらに深めることが期待される。
まとめ
- 音喜多駿氏は、三原じゅん子議員との対談を機に、HPVワクチンの男性への定期接種化の必要性を訴えた。
- 男性もHPVウイルスに感染し、がんなどのリスクを負うこと、パートナーへの感染予防の観点から「みんなの課題」と強調。
- 男性接種が見送られた理由である「費用対効果」について、間接効果を含めると評価が変わる可能性や、分析の立場・モデル精度の課題を指摘。
- アメリカや欧州諸国など、国際的には男女接種がスタンダードとなっている現状を紹介。
- 国内でも一部自治体での助成開始や9価ワクチンの男性使用承認など、着実な進展が見られる。
- 過去のHPVワクチンを巡る苦い経験を教訓に、科学的根拠に基づいた政策決定を政治が後押しすべきだと主張。