2026-05-04 コメント投稿する ▼
企業価値担保権が5月施行 無形資産で融資可能に、スタートアップ・中小企業の資金調達に新時代
2026年5月25日、企業の将来性や無形資産を担保に融資できる「企業価値担保権」を定めた事業性融資推進法が施行されます。有形資産を持たないスタートアップや、経営者保証が事業承継の壁となっていた中小企業の資金調達を大きく変える可能性を秘めた新制度です。銀行界は評価能力の強化を急ぐ一方、リスク管理の難しさもあり様子見の姿勢も残ります。日本の前近代的な融資慣行を変えられるか、金融機関の「目利き力」が問われます。
「企業価値担保権」とは 従来の融資慣行とどこが違うのか
企業が金融機関から融資を受ける際、これまでは土地や工場などの有形資産を担保に差し出すか、経営者本人が連帯保証人となる「経営者保証」が一般的な方法でした。しかし、起業から間もないスタートアップや、ブランド力・知的財産・顧客基盤などを主な強みとする企業にとって、有形資産は乏しいのが実情です。
こうした現状を変えるために誕生したのが「企業価値担保権」です。会社の総財産、すなわち有形資産と無形資産の両方を含む事業価値全体を担保として設定できる新しい仕組みです。2024年6月7日に参議院本会議で可決・成立した事業性融資推進法に基づき、2026年5月25日に施行されます。担保の対象は、不動産や機械設備といった有形資産にとどまらず、ブランド価値・知的財産権・顧客基盤・ノウハウ・将来のキャッシュフローまでを含む企業の総財産となります。
スタートアップと事業承継 新制度が生む可能性
新制度が最も活用を期待されるのは、担保となる有形資産を持たないスタートアップへの支援です。AI(人工知能)関連企業や大学発ベンチャーのような成長企業は、これまで銀行融資を受けにくく、ベンチャーキャピタルからの出資(エクイティ)に頼らざるを得ない場面が多くありました。企業価値担保権を活用することで、金融機関がより早い段階から融資(デット)という形で関与できるようになります。
中小企業の事業承継においても大きな効果が期待されます。経営者保証は後継者候補が個人財産を差し出すリスクを負うため、承継の意欲をそぐ要因となってきました。企業価値担保権が設定された場合、経営者保証の利用は原則として制限されるため、次世代への引き継ぎの負担が大きく軽減されます。地域の伝統産業や老舗企業が持つブランドや顧客基盤といった無形資産も担保として活用できるため、地方経済の活性化にも貢献が期待されています。
「スタートアップをやっていて銀行に何度も融資を断られた。この制度が本当に機能してほしい」
「経営者保証があるから後継ぎを探せなかった。制度が変われば会社を次世代につなげられるかもしれない」
「無形資産を正しく評価できる銀行員がどれだけいるのか、そこが一番の課題だと思う」
「将来性で融資が受けられるなら、地方の中小企業にも希望が出てくる。地域経済の活性化に期待したい」
「仕組みはいいけど、銀行が本当に使いこなせるのか。評価する側の能力が本当に問われている」
銀行の「目利き力」が試される 業界に迫られる変化
全国銀行協会の加藤勝彦会長(みずほ銀行頭取)氏は「技術力や知的財産、人的資本、販路といった無形資産も含めた事業性評価の能力を磨き、金融仲介の質を高めたい」と意気込みを語っています。全国地方銀行協会の片岡達也会長(横浜銀行頭取)氏も「活用事例についての勉強会を開催するなど、協会として加盟行を引き続きサポートしていきたい」と述べており、業界を挙げた準備が進んでいます。
一方で、金融界の内側には根強い「様子見ムード」も残ります。ある銀行の首脳は「どういう世界になるのか分からない。結局は銀行間で情報交換しながら探り合うことになるだろう」と本音を打ち明けています。財務情報に過度に頼ってきた従来の審査に慣れた銀行員が、企業のビジネスモデルや成長見通しを適切に見極める「目利き力」を身につけるには、時間と体制の整備が不可欠です。制度の活用にあたっては担保目的財産の処分やモニタリングの手法など、これまでの融資とは異なる特徴があり、事業者との丁寧なコミュニケーションが重要になります。
「前近代的な融資慣行」を変えられるか 制度の課題と展望
金融庁幹部は「日本の前近代的な融資慣行を変えていきたい」と強調しています。有形資産や担保・保証に過度に依存してきた日本の融資文化は、産業構造が「モノ」から「サービス」や「データ」へと移行する中で、時代に即していません。米国や英国では「全資産担保」として類似の制度が長年定着しており、日本もそのモデルに近づく形となります。
担保権が実行される場面では事業の譲渡や再編が生じる可能性があり、雇用の安定をどう守るかという問題もあります。厚生労働省は事業が譲渡される場合には原則として雇用を維持する方向で関連指針の見直しを進めており、制度の実効性を担保するための枠組み整備も同時に進んでいます。
物価高が続き、中小企業の経営環境が厳しさを増す今こそ、数十年にわたる政策の停滞が積み重なった融資慣行を転換させる好機です。企業価値担保権が本当に日本のスタートアップと中小企業の成長を支える制度となるのか。制度の成否を決める最大の鍵は、金融機関が真に「目利き力」を磨けるかどうかにかかっています。画期的な制度も、使う側の力量が伴わなければ絵に描いた餅に終わりかねません。金融庁や銀行界には、迅速かつ実効性ある取り組みが求められます。
まとめ
- 事業性融資推進法が2026年5月25日に施行。同法に基づく「企業価値担保権」制度がスタート
- 担保対象は有形資産+無形資産(知的財産・顧客基盤・ブランド・将来キャッシュフロー)の総財産
- スタートアップへの早期融資参画、中小企業の経営者保証依存脱却、事業承継の円滑化が期待される
- 全国銀行協会・地方銀行協会は準備を進めるが、金融界には「様子見ムード」も根強い
- 銀行員の「目利き力」(事業性評価能力)の向上が制度普及の最大の課題
- 担保権実行時の雇用保護について、厚生労働省が関連指針を見直し中
- 米国・英国では類似の「全資産担保」制度が既に定着。日本も欧米型に近づく
- 制度が機能するか否かは金融機関の本気度と実務体制の整備にかかっている