2026-07-31 コメント投稿する ▼
介護職の賃上げ、抜本改革へ。処遇改善加算の基本報酬化を厚労省に提言
介護現場の人材不足と低賃金が深刻化し、サービスの質や持続可能性にも影響が及ぶ中、全国介護福祉労働組合連合会(全介護)は、厚生労働省に対し、介護職員の処遇改善に向けた「抜本改革」を求める要請書を提出しました。 これまで、政府は介護職員の処遇改善策として、介護報酬に「処遇改善加算」を設けてきました。
介護現場の賃金、なぜ上がりにくいのか
介護職の賃金が他産業と比較して低い水準にとどまっていることは、長年の課題です。その背景には、介護サービスが公的な「国民皆保険制度」を基盤とした介護保険制度によって成り立っている、という特殊な構造があります。利用者の自己負担を抑え、誰もが必要なサービスを受けられるようにするため、介護サービスに対する国からの報酬(介護報酬)は、厳しく管理され、その改定も慎重に行われます。事業所は、この限られた介護報酬の範囲内で運営資金を賄うため、人件費への投資を拡大することに大きな制約を受けています。職員の給与を大幅に引き上げたくても、事業の継続性とのバランスから、容易には踏み切れないのが実情なのです。
この賃金の低さは、介護業界における人材の獲得競争力の低下を招き、結果として離職率の高さや慢性的な人手不足につながっています。職員が少ない状況では、一人ひとりの負担が増し、さらに労働環境が悪化するという悪循環に陥りやすいのです。特に、コロナ禍を経て、医療・介護現場の重要性が再認識される一方で、その担い手である介護職員への評価が、賃金や待遇面で追いついていない現状があります。この状況が続けば、質の高い介護サービスの提供体制そのものが揺らぎかねません。
処遇改善加算の限界と基本報酬化への期待
これまで、政府は介護職員の処遇改善策として、介護報酬に「処遇改善加算」を設けてきました。これは、一定の要件を満たした事業所に対して、加算された報酬の一部を職員の賃金改善に充てることを目的とした制度です。しかし、この加算金は、毎月の基本給とは別に支給される一時金や、特定の資格手当、あるいは勤続年数に応じた昇給といった、やや限定的な形で運用されることが多くありました。
その結果、加算金による収入増は一時的なものにとどまり、昇給の対象となりにくかったり、退職金計算の基礎となる賃金総額に算入されにくかったりするという課題がありました。つまり、キャリアを積んでも、将来的な収入の増加や安定した生活設計に結びつきにくい構造だったのです。加算制度は、事業所ごとの運用に委ねられる部分も大きく、その効果が職員一人ひとりに均等に行き渡らない、あるいは十分な改善につながらないケースも指摘されてきました。
全介護が提言する「基本報酬への組み込み」とは、この処遇改善加算による財源を、事業所が職員に支払う基本給に恒常的に上乗せする形に変更することを意味します。これにより、賃金の「底上げ」が期待でき、介護職員が将来にわたって安定した収入を得られるようになります。また、基本給が上がれば、それに連動して昇給や賞与、退職金なども増加するため、長期的な視点での生活設計が可能になります。これは、介護職がより魅力的な職業となり、若者や多様な人材が安心して働き続けられる環境を整備する上で、職業としての社会的評価を高めることにもつながります。
厚労省の対応と今後の見通し
今回の全介護からの要請に対し、厚生労働省の上野賢一郎大臣は「真摯に受け止め、関係省庁とも連携しながら、今後の介護報酬改定等も踏まえ、検討を進めていきたい」との意向を示しました。これは、制度の見直しに対する前向きな姿勢を示すものですが、具体的な実現には多くのハードルが予想されます。
まず、処遇改善加算の基本報酬への統合は、介護報酬全体の構造に関わる大きな変更であり、安易な実施は難しいでしょう。財源の確保はもちろんのこと、制度変更に伴う影響を慎重に分析し、介護サービス全体の質や提供体制にどのような影響が出るのかを多角的に検討する必要があります。また、介護保険制度は厚生労働省だけでなく、財務省、内閣府など複数の省庁が関わるため、省庁間の調整も不可欠となります。
さらに、介護報酬の改定は通常2〜3年に一度行われており、直近では2024年度に改定が行われたばかりです。今回の提言が、次の改定(2027年度の見込み)以降に議論されるとしても、その実現にはまだ時間を要する可能性があります。しかし、介護現場の持続可能性と、そこで働く人々の dignity(尊厳)を守るためには、賃金体系の抜本的な見直しは避けて通れません。今回の労組からの提言が、今後の介護政策における重要な議論のきっかけとなり、現場の実情に即した具体的な改善策へとつながっていくことが期待されます。
まとめ
全国介護福祉労働組合連合会は、介護職員の待遇改善のため、処遇改善加算を基本報酬に統合する「抜本改革」を厚生労働省に提言しました。
この提言は、介護職の賃金水準を恒常的に引き上げ、将来設計を可能にすることで、人材確保と定着につなげることを目的としています。
厚生労働省は検討の意向を示しましたが、財源確保や制度調整、介護報酬改定のタイミングなど、実現には課題も残されています。