2022-06-19 コメント: 1件 ▼
茂木幹事長「年金3割カット」発言に波紋 消費税の本質を問う声広がる
自民党の茂木敏充幹事長が6月19日放送のNHK『日曜討論』で放ったこの一言が、波紋を広げている。野党が掲げる「消費税減税」論を牽制する文脈での発言だったが、ネット上では「恫喝」「脅し」といった批判が相次いだ。
問題の発言はこうだ。
「消費税というのは、年金や医療、介護、子育て支援といった社会保障のための大切な財源です。これを減税するということは、年金の財源を3割削らざるを得なくなる」
言葉は冷静に聞こえるが、実質的には「減税すれば高齢者を直撃する」との“脅し”にも聞こえる。その背景にあるのが、「消費税=社会保障目的税」という論理だ。
「目的税」か「一般財源」か、曖昧な立ち位置
法律上、たしかに消費税法第1条第2項には「社会保障に充てる」と書かれている。ただし、あくまで「充てるよう努める」というレベルで、「充てなければならない」とまでは明記されていない。つまり、制度としては“社会保障のための税”とは言い切れない曖昧な存在だ。
加えて、消費税が社会保障目的税とされたのは比較的最近のこと。もともとは1990年代、大蔵省(現・財務省)も「消費税は一般財源」と説明していた。転機となったのは1999年、自自公連立政権の成立時。自由党の小沢一郎氏との交渉のなかで、「消費税は社会保障に使う」と予算総則に記されるようになった。
しかし、これが本当に正しかったのか──。
「社会保障目的税」はむしろ“不健全”な仕組み?
多くの先進国では、年金や医療などの社会保障は保険料でまかなう「社会保険方式」が基本。ドイツやフランスもそうだ。収入に応じて保険料を負担し、それに応じた給付を受けるという構造は、国民にとってわかりやすく、納得もしやすい。
一方、日本では制度の建前上は社会保険方式を採用しながらも、実際は消費税などの税金が多く投入されている。そのため、給付と負担の関係があいまいになり、「増税しないと社会保障が維持できない」という論法に、国民が疑問を抱くのも無理はない。
“海外では減税できた”のになぜ日本は?
コロナ禍で経済が冷え込んだ際、ドイツやイギリスは飲食業などへの支援として付加価値税(日本の消費税に相当)を時限的に引き下げた。これは、消費税があくまで一般財源だったからこそ可能だった。
ところが日本では、「消費税は社会保障に使っているから減税できない」というロジックが壁になる。柔軟な財政政策がとれない構造が、こうした恫喝的発言を生む土壌になっている。
「消費税=地方税」とする改革案も
一部の有識者は、消費税を完全に「地方税」にしてしまう構想を打ち出している。つまり、消費税を地方の歳入として安定的に使ってもらい、その代わりに国の歳出には使わないという方式だ。地方交付税や国庫補助金を減らし、その分を国の社会保障財源に回す仕組みである。
この案が実現すれば、消費税は景気に左右されにくく、地方財政の安定化にもつながる。ただし、霞が関の官僚機構、とくに財務省が地方への影響力を失うことになるため、現実には強い抵抗が予想される。
“国民を脅す税制”に未来はあるか
結局のところ、茂木幹事長の発言があぶり出したのは、「消費税を人質に取って社会保障を守る」という構図の異常さだ。制度の根本的な設計が歪んでいるからこそ、減税論が「年金カット」という極論とセットで語られる。
参院選を前に、政治家たちは再び消費税を争点に持ち出してくるだろう。しかし、そこにある“前提”が正しいかどうか、私たち有権者一人ひとりが見極めることが求められている。