2026-08-08 コメント投稿する ▼
戦没者遺骨の収容率がわずか0.7% 国会議員の意識調査で浮き彫りになった「責務」の重み
戦没者の遺骨収集を「国の責務」と明記した推進法が施行されてから10年が経過しましたが、その進捗はあまりにも遅く、国会議員の認識と実際の状況との間には大きな乖離があることが明らかになりました。 推進法の意義は認めるものの、国家としての責務が完全に果たされているとは考えていない議員が相当数存在することが浮き彫りになったのです。
戦後80年、なお未完の「国の責務」
2016年3月、戦没者の遺骨収集を初めて法的に「国の責務」と位置づける「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」(戦没者遺骨収集推進法)が、議員立法として全会一致で成立しました。この法律は、戦没者の遺骨収集を国家的な責務として位置づけ、その推進を図ることを目的としています。当初、2024年度までを「集中実施期間」と定め、体制整備と効率的な調査・収容の実施を目指しました。その後、改正によりこの集中実施期間は2029年度まで延長されています。しかし、現在もなお、海外や国内各地で約240万柱の戦没者のうち、112万人分ものご遺骨が未収容のままとなっています。厚生労働省は、このうち約59万人分が「収容可能」であると推計していますが、この膨大な数のご遺骨の帰還に向けた取り組みは、国民の、そして何よりも国会議員の強い意志と継続的な努力を必要としています。
国会議員の意識調査に見る認識の温度差
この重要な課題に対し、国会議員がどのように認識しているのか、その実態を探るべく、産経新聞が全国会議員を対象とした意識調査を実施しました。調査は今年6月から7月にかけて、衆議院議員465人、参議院議員247人、合計712人を対象に行われ、317人から回答を得ました(回答率44.5%)。
調査結果によりますと、推進法が遺骨収集事業の前進に「寄与してきた」「一定寄与してきた」と答えた議員は全体の82.0%に達しました。この数字は、多くの議員が法律制定の意義や、これまでの取り組みの一定の成果を評価していることを示唆しています。しかし、一方で「国の責務」が「果たされている」「一定果たされている」と回答した議員は67.4%にとどまりました。推進法の意義は認めるものの、国家としての責務が完全に果たされているとは考えていない議員が相当数存在することが浮き彫りになったのです。この約15ポイントの差は、法律は前進したが、目標達成には程遠いという現実を、議員自身も認識していることの表れと言えるでしょう。
「政治」が足かせか、進まぬ遺骨収集
さらに、推進法が「寄与していない」「あまり寄与していない」と回答した51人の議員に対し、その要因を尋ねたところ、興味深い結果が得られました。回答者から寄せられた147の回答のうち、「予算措置の不十分さ」「政治課題としての優先順位の低さ」「政治的推進力の弱さ」といった、政治的な取り組みの不足に起因するとみられる項目が全体の62.6%を占めたのです。これは、法整備だけでは不十分であり、予算や政治的な意思決定における優先順位、そして政府・与党による積極的な推進力が不足していることが、遺骨収集が進まない大きな要因であるという認識が、多くの国会議員の間にあることを示しています。
対照的に、「戦後80年超という歳月の経過」「国民の関心の低さ」「遺族・遺族団体の減少」といった、時間経過に起因する要因を選んだ議員は29.9%でした。この結果からは、単に時間が経過したから進まないのではなく、むしろ政治的な課題解決への取り組みの遅れこそが、現状を打破できない根本的な原因であると、多くの議員が考えていることがうかがえます。
「手立てはある」議員の認識
また、国の責務が「果たされていない」「あまり果たされていない」と回答した98人の議員に対して、必要な手立てについて尋ねたところ、「有効な手立てはない」と回答した議員は一人もいませんでした。このことから、現状を問題視している議員の多くは、遺骨収集事業を前進させるための具体的な解決策や方策は存在すると考えていることがわかります。推進法の意義は認めつつも、その実効性を高めるための具体的な政策や予算、そして政治的な決断を求めている議員が多いと推察されます。
わずか0.7%、収容可能遺骨の現実
推進法の施行から10年、そして戦後80年という月日が流れたにもかかわらず、実際に収容された遺骨はわずか3981人分に過ぎません。これは、厚生労働省が「収容可能」と推計する約59万人分のごく一部、わずか0.7%に相当します。この衝撃的な数字は、議員の認識と現実との間に横たわる深い溝を、より鮮明に浮き彫りにしています。未収容となっている240万柱ものご遺骨を前に、「国の責務」を果たすとは到底言えない状況なのです。
「国の責務」遂行への課題と展望
遺骨収集は、戦争で犠牲になった尊い命への鎮魂であり、残されたご遺族の悲願でもあります。それは、国家が国民に対して果たすべき、最も基本的な、そして道義的な責務の一つと言えるでしょう。今回の意識調査は、多くの国会議員がその責務の重要性を認識しつつも、具体的な進展には課題が多く残されているという現実を突きつけています。
浜井和史氏(帝京大教授、厚生労働省「戦没者の遺骨収集に関する有識者会議」構成員)は、この状況を「推進法を議員立法とした以上『進んでいない』とはいえないが、胸を張って『責務を果たしている』とはいえないという本音と建前が透けてみえる」と分析しています。この指摘は、まさに現状を的確に表していると言えます。
集中実施期間が延長された今、政治の停滞や予算不足といった要因を克服し、より実効性のある取り組みを加速させることが急務です。関係省庁はもちろんのこと、国会議員一人ひとりが「国の責務」を改めて強く認識し、具体的な行動へと移していくことが強く求められています。それは、戦争の悲劇を繰り返さないためにも、そして未来の世代に平和な日本を引き継いでいくためにも、私たちが避けては通れない道なのです。
まとめ
- 戦没者遺骨収集を「国の責務」とする法律が施行されてから10年が経過。
- 現在、約240万柱のうち112万人分の遺骨が未収容。
- 国会議員の意識調査では、推進法の意義は認めつつも「責務は果たせていない」との声が多数。
- 収容された遺骨はわずか3981人分で、収容可能な遺骨の0.7%に過ぎない。