2025-03-04 コメント投稿する ▼
神谷宗幣「国民負担率35%上限」構想 参政党の8政策が問う国家再設計の現実性
既存政党とは異なる“対立軸”を鮮明にすることを狙った訴求でもあります。 神谷氏は、税+社会保険料の合計負担率を35%以内に制限することを提案しています。 神谷氏はその穴埋めを国債発行や償還ルール変更で補うとしていますが、これは将来の財政リスクを誘発する構図です。 神谷氏はこの原則を撤廃し、国債発行をもっと自在にすることを打ち出しています。 しかし、これには重大なリスクがあります。
参政党・神谷宗幣の「8政策構想」が問うもの
参政党代表の神谷宗幣氏は、自党が与党になった際に実行したい政策を8点挙げています。
それらは「国民負担率35%上限」「財政法4条の廃止/国債償還ルールの変更」「反グローバリズム」「外国人受け入れの制限強化」「国際軍産メディア構造の可視化」「医薬農薬利権の精査」「再エネ賦課金の撤廃・原子力重視」「教育の根本改革」です。
これらを政策体系として見ると、国家主権強化・反既存利権・減税重視・保守文化再興という思想軸が明確です。既存政党とは異なる“対立軸”を鮮明にすることを狙った訴求でもあります。
ただし、宣言と施策は異なります。政策の実効性・法制度適合性および国際関係との整合性において、複数の難所があります。以下では主要テーマを取り上げ、期待できる点と課題を分析します。
税・社会保険料の合計上限35%:意味と限界
神谷氏は、税+社会保険料の合計負担率を35%以内に制限することを提案しています。これが実現すれば、多くの国民には減税効果があり、可処分所得の拡大につながる可能性があります。
一方で、これは「財源の穴」を生みます。政府支出(社会保障、国防、公共投資など)を賄うためには、新たな財源を確保する必要があります。神谷氏はその穴埋めを国債発行や償還ルール変更で補うとしていますが、これは将来の財政リスクを誘発する構図です。
また、現行の税制・社会保険制度は複雑に絡み合っており、保険料・税率の調整だけで全体を35%以下に収めるには大胆な制度改変が必要です。所得階層・業種・高齢者負担などのバランスをどう調整するかは難問です。
財政法4条廃止・国債償還ルール改革:憲法・信認リスクを抱える挑戦
現行の財政法4条は、国の歳出が公債以外の収入をもって賄われるべきとする原則を定めています。ただし、但し書きで公共事業等に限り国債発行を認める運用がなされています。
神谷氏はこの原則を撤廃し、国債発行をもっと自在にすることを打ち出しています。理論的には、歳入制約を緩和して積極財政を可能とするという狙いがあります。
しかし、これには重大なリスクがあります。国債発行の自由化は、財政健全性・国債信認(信用)を損なう可能性があります。過去、日本は「特例公債法」という年次法で実質的に財政法を骨抜きにしてきました。
もし政権が「国債なら何発行してもいい」となると、将来のインフレリスク・金利上昇、国債償還不能懸念を通じて市場不安を招く可能性があります。信認を維持しつつ何発行できるか、償還設計をどう担保するかが極めてシビアな課題です。
外国人政策強化・グローバリズムへの抵抗:排外主義の危うさ
神谷氏は、外国人の就労・帰化・受給・土地取得・インフラ利用などの制限強化を掲げています。これは主権国家性の強調と“国民ファースト”を打ち出す姿勢と一致します。
ただ、この方向性は国際人権法・二国間条約や国際的信用との兼ね合いで摩擦を起こす可能性があります。特に外国人労働者受け入れを制限すると、労働力不足問題、農業・介護・建設などでの人材確保に支障が出る恐れがあります。
排外主義的との批判も繰り返し出ています。実際、参政党には「移民断固反対」「日本人優先」などの主張が多用され、政治的な極端性を指摘する声もあります。
エネルギー政策・再エネ賦課金撤廃:現実とのギャップ
神谷氏は再エネ賦課金の廃止を掲げ、太陽光・風力ではなく火力・新型原子力・水力で電力を再構築し、安価かつ安定供給を目指すと言います。
この主張には一定の説得力があります。再生可能エネルギーの導入拡大には、補助金・賦課金というコスト負担が不可避であり、制度設計に無理があるとの批判もあります。
ただし、太陽光・風力を全面否定することは、温室効果ガス削減/脱炭素の国際的責務と逆行するリスクも孕みます。新型原子力導入も現実には安全性・技術成熟度・コスト・住民合意などの障壁があります。
再エネと原子力・火力をどう組み合わせるか、需給バランスと環境制約をどう調整するかが政策設計上の分水嶺になるでしょう。
利権構造の可視化・医薬・農薬・教育改革:理想と実行の差
神谷氏が指摘する医薬・農薬・化学肥料・教育の利権構造批判は、国民感情を刺激する訴求力があります。利権構造を見える化し、利益集団に対する政治介入を封じたいという思想は、既存体制批判と親和性があります。
しかし、利権の解体は、既得権勢力との衝突を伴います。厚労省・農水省・教育委員会などに根深い利権が存在するため、改革にあたって政治力・調整力・時間が求められます。
教育改革については、「江戸時代モデル」教育という文言を使っていますが、具体的な制度設計、カリキュラム、教員養成制度、憲法や学習指導要領との整合性など、多くの法制度的・行政調整上のハードルがあります。
挑戦であり宣言、だが試される実行力
神谷宗幣氏の政策構想は、その過激さ・鮮明さゆえに注目を集めています。政策ラインアップは総花的で、既存政党との明確な差別化を意図しています。
ただ、宣言としてはキャッチーでも、実効性を持たせる「政治・法制度的裏付け」が十分かどうかは疑問符がつきます。国債発行自由化や税負担上限設定は、国際信用・将来世代負担・制度整合性とぶつかる可能性が高い道です。
結論として、これらの政策を掲げることは、強い主張と方向性を示す政治的意味を持ちます。しかし、それを実行可能な現実路線へ昇華させるには、非常に綿密な制度設計と権力調整力が不可欠です。神谷政権構想が単なる“夢物語”に終わらないか、与党として政権を担当しうるかは、その実行力と現場調整力が試金石となるでしょう。