2025-12-09 コメント投稿する ▼
東京都の「1.5兆円都税が奪われている」主張と偏在是正措置の実像
東京都のメッセージは、財源の多くを国に吸い上げられているという印象を与え、都民の「損をしているのではないか」という感情に訴える形になっています。 一方で、「国に奪われている」「都民のために使われず全国に分配されている」という表現には、いくつかミスリードになり得る点があります。
東京都が訴える「1.5兆円が奪われている」という問題提起
2025年12月、東京都の公式アカウントが「年間約1.5兆円もの都税が国に奪われ、全国に分配されている」と発信し、都税の行き先を巡って大きな議論を呼んでいます。投稿では「偏在是正」の名の下に、都民が納めた貴重な税金が地方交付税などとして全国に回されており、本来は東京都の行政サービスの充実に使われるべきだと強調しています。
東京都は、都独自で高校授業料や給食費の無償化などに先行して取り組んできたとアピールし、「都民の税金は、まず東京の行政サービスのために使われるべきだ」と訴えています。投稿のトーンは、国の税制改正議論が東京都を狙い撃ちにしているという強い危機感に支えられています。
「東京の税金が地方に流れていくと聞くと、正直モヤモヤする」
「都民の負担で全国を支える仕組みなら、もっと分かりやすく説明してほしい」
「地方も大事だが、自分たちの生活が後回しにされるのは納得しにくい」
「『奪われている』という表現には違和感があるが、問題提起の意味は理解できる」
「結局だれが得をしていて、だれが損をしているのかが見えにくい」
東京都のメッセージは、財源の多くを国に吸い上げられているという印象を与え、都民の「損をしているのではないか」という感情に訴える形になっています。一方で、それが日本全体の地方財政制度の中でどう位置づけられるのかまでは、投稿だけでは分かりにくい構成です。
偏在是正措置とは何か 東京都の論点
東京都が問題視している「偏在是正措置」は、主に法人住民税や法人事業税など、企業活動にかかる地方法人課税の一部を国税化し、その財源を地方交付税などを通じて全国に再配分する仕組みです。税収が大都市に集中しやすい構造をならし、どの自治体でも一定の行政サービスを提供できるようにすることが本来の目的です。
東京都はこの仕組みによって、毎年約1.5兆円規模の法人二税が国に吸い上げられ、地方に配られていると試算しています。さらに、人口1人当たりの一般財源額で見ると、東京都は全国平均22.9万円に対し23.8万円とほぼ同水準であり、「是正すべき偏在は存在しない」と主張しています。
東京都の言い分を整理すると、第一に「東京の税収は多いが、都民1人当たりが享受している財源は全国平均と同程度でしかない」、第二に「それにもかかわらず追加の偏在是正強化が議論されており、東京だけが狙われている」という二点に集約されます。ここまでは、事実に基づきつつ、自らの不利益を強調する政治的メッセージだと言えます。
「奪われる」という表現が生む誤解
一方で、「国に奪われている」「都民のために使われず全国に分配されている」という表現には、いくつかミスリードになり得る点があります。第一に、偏在是正措置は東京都だけを狙った特別ルールではなく、全国の税源格差を調整するための一連の税制改正の一部であり、他の大都市圏も同じ枠組みの中で負担や受益を分かち合っています。
第二に、東京都が示している「1人当たり一般財源額」は、すでに偏在是正後の数字です。つまり、国による再分配で各自治体の財源を慣らした結果として「全国平均と同水準」になっているのであり、その数字を根拠に「偏在は存在しない」と言い切るのは、論理としてやや飛躍があります。
また、「都民の税金が都民のために使われるべきだ」というメッセージは感覚として理解しやすい一方で、税の本質が「国全体の公共サービスを支えるための共同負担」であることを意図的に弱めて伝えています。東京には全国から人や企業が集まり、その集積効果で高い税収が生まれています。地方のインフラや教育投資で育った人材が東京で働き、その税金が都税として計上されるという現実もあり、「東京だけの稼ぎ」と言い切ることはできません。
都民が考えるべき本当の論点
東京都の発信が投げかけている本質的な問いは、「どの程度まで地方との財源再分配を認めるのか」という点です。国の税制改正で偏在是正が行き過ぎれば、東京のインフラ整備や子育て・福祉施策に使える財源が削られるのは事実であり、その影響を丁寧に試算し、都民に示すことは必要です。
一方で、地方の税収格差が広がれば、医療や教育、インフラ整備の水準に深刻な差が生まれ、結果的に大都市へのさらなる人口集中を招きます。地方が疲弊すれば、東京の経済も人材も細り、長期的には東京都自身の税収基盤も弱くなります。都市と地方は対立軸ではなく、税と人の流れで強く結びついた関係にあるのが現実です。
今回の東京都の投稿は、都民の目線から見た不公平感を可視化したという意味では一定の意義があります。しかし、税制全体の仕組みや、東京が全国から受けている恩恵にはほとんど触れていません。都民としては、「奪われている」という強い言葉だけで判断するのではなく、偏在是正の中身、地方の実情、そして東京の将来像まで含めて冷静に議論することが求められています。