佐賀県吉野ヶ里町で昨年11月、町の財政協働課長だった男性職員(当時58歳)が亡くなった。その死を巡って、町長によるパワーハラスメントが原因だったのではないかという声があがっている。
町区長会の会長を務める多良正裕氏は4日、町議会に対して「職員の死の経緯を明らかにしてほしい」と調査を求める要望書を提出した。背景には、町内に広がる不信と、亡くなった職員の「声なき声」に応えようとする強い思いがある。
課長の訴えと突然の死
問題が起きたのは昨年4月。町の新庁舎建設を巡る協議の場で、当時の課長は財政面から慎重な立場を示した。だが、それが町長の逆鱗に触れたのか、「俺が(担当を)代えてやる」「どこさでも行ってよか」などと激しく叱責されたという。
その後、課長はうつ病を発症し、休職を余儀なくされた。遺族によれば、精神的に大きく追い詰められていた様子で、何度も「自分の意見を言っただけで、なぜこんな目に遭うのか」とこぼしていたという。
そして11月。副町長あてに「死をもって抗議する覚悟はできている」とのメールを送信した翌日、佐賀市内の林道で倒れているのが発見された。命はすでに尽きていた。
町の対応に残る疑問
町は遺族の依頼で調査を行ったが、「パワハラはなかった」との結論を出した。だが、経緯を知る町内関係者からは、「本当に中立な調査だったのか」と疑問の声も多い。
亡くなった職員の思いを知るという人物から、昨年12月、町区長会の多良会長のもとに匿名の手紙が届いた。「町長のパワハラで自殺したのではないか」と記されていたという。
区長会長の決意と町長の説明
要望書を提出した多良会長は「自分の意見を正直に言えなくなるような職場環境では、町政は成り立たない」と強調。「このままでは町全体がおかしくなる」と訴える。
一方、伊東健吾町長は記者の取材に対し、「あくまで業務上のやり取りだった。ハラスメントの意図はなかった」と述べ、発言の正当性を主張している。
議会と住民、注視の中で
町議会の馬場茂議長は「調査要望を重く受け止めている。事実関係を丁寧に確認していく必要がある」と話す。今後、議会がどう動くのかが注目される。
亡くなった職員は、誠実で職務に真摯な人物として知られていた。住民の一人は「命をかけて町の将来を案じたのだろう。彼の死を無駄にしてはならない」と語った。