2025-12-05 コメント: 2件 ▼
経営管理ビザ厳格化で中国人移住者困惑、大阪に677社ペーパー会社判明
外国人経営者向け在留資格「経営・管理ビザ」の取得要件が2025年10月16日から厳格化され、中国人移住希望者の間で深刻な動揺が広がっています。 厳格化により資本金は6倍の3000万円以上となり、1人以上の常勤職員雇用が必須要件に追加されます。 2025年10月16日から経営管理ビザの許可基準が大幅に改正され、資本金要件が500万円から3000万円以上に引き上げられました。
経営ビザ要件変更の衝撃
2025年10月16日から経営管理ビザの許可基準が大幅に改正され、資本金要件が500万円から3000万円以上に引き上げられました。同時に常勤職員1人以上の雇用が必須となり、経歴や学歴、日本語能力の要件も新設されました。この変更は、改正前の資本金要件が低すぎ、ペーパーカンパニー設立や移住目的での悪用が多かったことが背景にあります。
既に日本に移住している中国人の間では困惑が広がっています。大阪駅近くで毎週開催される交流会には約30人が集まり、ビザ更新への不安を共有しました。参加した陳偉さんは「ビル・ゲイツでさえガレージで事業をスタートさせた」として、常勤職員雇用義務を「理不尽だ」と批判しています。
大阪に集中する中国系ペーパー会社の実態
読売新聞と阪南大学松村嘉久教授の共同調査により、大阪市内の築古物件5棟に2022年から2025年9月まで中国系法人677社が登記されていることが判明しました。このうち666社(98.4%)の資本金は厳格化前に必要とされた「500万円」と同額でした。
調査対象の5棟はいずれも築30年以上で、1棟あたり86から240社が登記されています。事業目的に「特区民泊運営」を掲げる法人が641社に上り、中国にいる代表のうち3年間で583人が日本に住所を移していました。
大阪市大正区の4階建てビルには113社が本社を置いていますが、記者が何度訪問しても入り口は閉鎖され、人の出入りは確認できませんでした。ビル所有者の中国人男性は「特区民泊用に改装したがコロナ禍で利用者がいなくなり、2022年に中国系法人にビル1棟を貸した」と説明しています。
移民ビジネスの仕組み
法人登記簿の分析により、100社以上で「取締役」を務める人物が複数存在することが明らかになりました。このうち1人の「日本側協力者」が読売新聞の取材に応じ、移住の仕組みを明かしました。
仲介者から連絡が入ると、まもなく500万円が海外から送金され、司法書士が中国人と日本人を「取締役」として法人登記し、次に行政書士が経営・管理ビザの申請書類を作成するという流れです。報酬は行政書士のビザ申請で15万から20万円、「取締役」になる場合は2万から3万円でした。500社以上の「取締役」を務める司法書士法人の代表もいます。
こうした移民ビジネスが成立する理由について、松村教授は「外国人が海外にいたまま口座開設や法人登記を行うのが難しいため」と分析しています。日本に拠点を置く中国系法人や不動産業者が「ブローカー」となり、司法書士らをつなぎます。中国人は資本金に加え手続き費用に法外な値段を支払い、「詐欺」と訴える人もいます。
要件厳格化への専門家の見解
筑波大学明石純一教授は「資本金を6倍に引き上げたのは思い切った数字で、資金力に乏しい一定の層への影響は出る」と分析しています。一方で「日本は移住先の一つとして有力視されており、経営・管理の在留資格はその手段の一つとして残る」として、制度趣旨に合う健全な受け入れになることが望ましいと述べました。
元入管職員の行政書士木下洋一氏は「経営・管理ビザ取得のハードルは確かに低かったが、今回の要件変更は唐突すぎる」と指摘し、すでに入国している人には旧要件を適用すべきと主張しています。
厳格化を受け、帰国する中国人も現れています。大阪市福島区の行政書士事務所には、厳格化要件公表から数日間で7人から「会社を閉めて年内に中国に帰る」と連絡がありました。常勤職員の新規雇用による事業継続のメリットが感じられず、様子見のため一度帰国するケースが目立ちます。
在留中国人急増の背景と今後の展望
経営・管理ビザで在留する中国人は昨年、過去最多の2万1740人に上りました。出入国在留管理庁のデータによれば、経営管理ビザを持つ外国人は2018年時点で2万5670人でしたが、2022年末には3万1808人に増加し、取得者の半数近くが中国籍となっています。
経済状況悪化や政治的不安定を背景に、中国から日本への移住希望者は今後も継続すると予想されます。しかし厳格化により、実体のない会社設立による制度悪用の抑制が期待される一方、真剣に日本で事業を行う意思と能力を持つ外国人起業家にとってはハードルが格段に高くなりました。
松村教授は「実体がわからないから日本社会に外国人への不安が広がり、排斥の思考になる」と指摘し、「日本に必要な人材を見極め、受け入れられるような制度を構築していくことが必要だ」と述べています。今回の制度改正が、移民政策の健全化と外国人起業家の質的向上にどのような効果をもたらすのか注目されます。