2025-11-11 コメント投稿する ▼
アジア開発銀行、JICA信託基金でフィリピン水道事業者に出資 マニラの水危機に国際支援
アジア開発銀行(ADB)は、国際協力機構(JICA)が出資する信託基金「アジアインフラパートナーシップ信託基金2(LEAP 2)」を活用し、フィリピン・マニラ首都圏の水道事業者Maynilad Water Services, Inc.(メイニラッド社)に対し、総額1億4,500万米ドルの出資契約を締結した。
アジア開発銀行、JICA出資信託基金を通じフィリピン水道事業者に出資
アジア開発銀行(ADB)は、国際協力機構(JICA)が出資する信託基金「アジアインフラパートナーシップ信託基金2(LEAP 2)」を活用し、フィリピン・マニラ首都圏の水道事業者Maynilad Water Services, Inc.(メイニラッド社)に対し、総額1億4,500万米ドルの出資契約を締結した。JICAは11日、これを正式に発表した。
背景:水不足が慢性化する首都圏
フィリピンでは、気候変動による降雨パターンの変化、経済発展と急速な都市化、人口増加が重なり、清潔な水へのアクセスが深刻な課題となっている。特にマニラ首都圏では、断続的な給水や漏水による水損失が慢性化し、低所得層が多く住む高密度地域では生活水準や衛生環境への影響が顕著だ。
JICAの分析によれば、マニラ首都圏の人口は今後も増加傾向にあり、既存の水処理・送配水インフラでは需要を賄いきれない状況にある。水道施設の老朽化に加え、下水道整備率も依然として低く、都市全体の衛生環境改善が喫緊の課題とされている。
事業の概要と目的
今回の出資は、メイニラッド社によるインフラ強化計画を支援するもの。主な事業内容は、水処理能力の拡大、漏水削減、送配水ネットワークの改良を通じた給水範囲の拡大に加え、新たな下水道管の敷設や揚水ポンプ場、インターセプターシステム(汚水を効率的に処理施設へ誘導する仕組み)の建設などを含む。
この取り組みにより、マニラ首都圏全体の給水効率と衛生環境の改善が見込まれる。ADBは出資を通じて、民間資金の呼び込みを促す「カタリティック・ファイナンス(触媒的投資)」を狙っており、公共セクター単独では実現が難しい規模の都市インフラ整備を推進する構えだ。
JICAとADBの連携構造
JICAが出資する「LEAP 2」は、アジア・太平洋地域における質の高いインフラ投資を支援するために設立された信託基金。ADBとJICAは2016年に初期基金「LEAP」を立ち上げ、これまでに再生可能エネルギー、交通、上下水道、都市開発など多分野で協調投資を実施してきた。LEAP 2はその後継ファンドとして2023年に発足し、より持続可能性・包摂性・気候変動対応に重きを置いた投資戦略を取っている。
JICAによれば、今回のメイニラッド社への出資は「包摂的かつレジリエントな都市開発支援のモデルケース」と位置付けられる。ADB側も、同国における水セクターへの民間投資を誘発することで、将来的な持続的発展に資するとの見解を示した。
マニラの水インフラ問題と民営化の課題
メイニラッド社は、マニラ首都圏の西部地区の給水・下水処理を担う民間事業者で、1997年にフィリピン政府が行った水道事業の民営化により設立された。もう一方の東部地区を担当するマニラウォーター社とともに、マニラ首都圏の大部分の水供給を支えている。
しかし、過去には料金設定や漏水率、投資不足をめぐり、規制当局との対立や公共性を巡る議論も絶えなかった。今回のADB・JICAによる出資は、民間事業者の経営基盤を安定化させつつ、国際機関による監視とガバナンス強化を同時に図る狙いがある。
水道は社会インフラの中でも特に政治的・社会的に敏感な分野であり、こうした国際金融機関の関与は「民間効率性」と「公共性」の両立を模索する動きの一環といえる。
国際的意義と今後の展望
今回の案件は、開発途上国の水セクターにおける「官民連携(PPP)」を深化させる実例としても注目される。アジアでは人口集中や都市インフラ老朽化が深刻化しており、財政余力の乏しい新興国では、国際開発金融機関によるリスク分担型の出資が不可欠となっている。
JICAは、今回の出資により「安全で持続可能な水供給体制の構築を後押しする」としており、将来的には気候変動への適応や防災面への波及効果も期待されている。ADBも同様に、今後の東南アジア諸国でのインフラ投資モデルとして「LEAP 2スキーム」を横展開する方針を示している。
水の安定供給は、経済成長だけでなく、衛生・教育・ジェンダー平等などSDGsの達成にも直結する。開発資金の多層化が進む中、JICAとADBが共同で構築したファンド・メカニズムが、公共性と市場性を兼ね備えた持続的な開発支援の形として機能するかが問われる。