2025-10-08 コメント投稿する ▼
日本、カンボジアに444億円規模円借款支援 水道・電力インフラ拡張へ
日本政府は2025年10月8日、カンボジア王国プノンペンにおいて、上水道施設拡張と送配電網拡張を支援するため、総額 444.37億円 を限度額とする2件の円借款を供与することで合意した。 2件目は「プノンペン首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ3)(第一期)」で、供与限度額は 229.11億円。
ニロート上水道拡張で給水逼迫に対応
日本政府は2025年10月8日、カンボジア王国プノンペンにおいて、上水道施設拡張と送配電網拡張を支援するため、総額 444.37億円 を限度額とする2件の円借款を供与することで合意した。
1件目は「ニロート上水道拡張計画(第一期)」で、供与限度額は 215.26億円。この事業では、プノンペン市内で水の需要と供給のギャップが深刻な地域を対象に、浄水施設や配水網を拡充することで、安定的な給水体制を整えることを目指す。住民の生活環境の改善と、商業・経済活動を支えるインフラ強化が主な目的となる。
プノンペン市の水道インフラはかねてから、漏水や不正使用を含む“非収益配水”が高率で、給水時間帯が限定される地域もあった。近年、運営改善により給水率向上や非収益水率低下が進んでいるものの、都市拡大や人口増加に伴う需要増には対応しきれていない。そのため今回の拡張は、中長期の都市成長を見据えた戦略的投資と位置付けられる。
送配電網整備で電力供給の信頼性向上
2件目は「プノンペン首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ3)(第一期)」で、供与限度額は 229.11億円。こちらは、電力需要が急速に拡大しているプノンペン首都圏で、変電設備や送電・配電線網を整備・拡張し、電力供給の信頼性を強化することを狙いとする。加えて、再生可能エネルギー導入を促す系統整備も視野に入れており、環境と経済発展の両立を意識した事業となる。
過去にも同様の支援が行われており、フェーズ2事業では92.16億円の円借款が供与されていた。さらに2024年には変電所・送配電網拡張に向け、約79.88億円を上限とする円借款契約も実行されており、今回の支援は段階的整備の延長線上にある。
借款条件と外交的意義
両事業の借款条件は共通で、金利は変動(TORF+0.4%。ただしコンサルティング・サービス部分は年0.65%)、償還期間は30年(据置10年含む)、調達条件はアンタイド(日本企業に限定されない)とされている。
こうした条件設計は、相手国の裁量性を尊重しつつ、競争性を確保させる構造であると読み取れる。
外交・経済の観点から見れば、これらの支援は日本が東南アジアでの存在感を強める戦略の一部と考えられる。インフラ支援を通じた関係深化は、単なる援助ではなく戦略投資としての性格を帯びる。しかし、円借款は将来的な返済義務を伴うため、カンボジア側の運営能力・収益性確保が不可欠であり、リスク管理と事業の持続可能性が問われる。
また、こうしたインフラ事業には、企業・団体献金の影響や政治的利害が介入する可能性も否定できない。公共資金を巡る利権構造が形成されないよう、透明性と説明責任を確保すべきだ。
最近では、中国がカンボジア向けの貸付を引き締める動きも見られる。中国は2024年初から新規融資を停止しており、日本や世界銀行がその穴を埋める形が目立つようになっている。こうした変化は、援助外交の勢力図を揺るがす可能性を孕む。
これらを踏まえると、日本の対外支援は”質の高いインフラ援助”を前面に出す一方で、ポピュリズム外交の批判的視点をも意識すべきだ。過度に受け手国の人気取り政策に走る支援は、長期的な国益や持続性を損なうリスクをはらんでいる。
今後、両プロジェクトの詳細な実施スケジュール、設計・建設体制、監督・維持管理体制の構築が注目される。住民生活の改善と経済発展の双方を支えるインフラとして、実効性と持続性を兼ね備えた支援が成否を分けることになる。