2025-11-07 コメント投稿する ▼
高市首相が経済安保法改正指示へ 医療インフラ指定と海外事業支援を創設
医療分野の基幹インフラ指定やグローバル・サウスとの連携を意識した海外事業支援の創設など、安保環境の変化に対応した大幅な制度拡充が図られます。 改正案の注目点は、電気やガスなどの「基幹インフラ」に医療分野を追加で指定し、サイバー攻撃への対応を強化することです。
高市首相が経済安保法改正を指示へ
医療をインフラ指定・海外事業支援強化で「危機管理投資」促進
高市早苗首相が2025年11月7日に開く経済安全保障推進会議で、2022年に成立した経済安全保障推進法の改正に向けた検討を閣僚に指示する方針を固めました。医療分野の基幹インフラ指定やグローバル・サウスとの連携を意識した海外事業支援の創設など、安保環境の変化に対応した大幅な制度拡充が図られます。
医療分野を基幹インフラに追加指定
改正案の注目点は、電気やガスなどの「基幹インフラ」に医療分野を追加で指定し、サイバー攻撃への対応を強化することです。これは病院に対するサイバー攻撃への対処が急務となっているためで、2022年には大阪府立病院機構の「大阪急性期・総合医療センター」がサイバー攻撃を受け、外来診療の中止に追い込まれました。
「病院のサイバー攻撃対策は待ったなしの状況」
「医療インフラの防護は国民の生命に直結する」
「電子カルテが止まったら病院機能が麻痺する」
「医療機関もサイバーセキュリティ強化が必要」
「デジタル化進む医療現場の脆弱性を守らないと」
大阪急性期・総合医療センターの事例では、給食事業者のVPN装置の脆弱性を突いたランサムウェア攻撃により、電子カルテシステムが暗号化され、完全復旧まで約2か月半を要しました。被害額は調査・復旧費用で数億円、診療制限による逸失利益で十数億円に上ったとされています。
海外経済安保事業展開支援を新設
改正案では新たに「海外経済安保事業展開支援(OESA)(仮称)」の枠組みを創設し、要衝の港湾運営権を握るなど新興・途上国「グローバル・サウス」への影響力を強める中国への対抗を念頭に置いた支援体制を構築します。
具体的には、重要物資の輸送を滞らせない目的で、港湾の修繕事業を受注する事業者に資金を拠出することなどを想定しています。これまでの経済安保法の支援対象は半導体など重要物資の供給網確保が中心でしたが、海底ケーブル敷設などの民間の重要事業まで対象を広げ、首相が掲げる「危機管理投資」の拡大を図る構えです。
医療機関への事前審査義務化
医療分野が基幹インフラに指定されると、地域の拠点病院などはコンピューターシステムをはじめとする重要設備の導入時に政府の事前審査が義務づけられることになります。サイバー攻撃への耐性を含め設備に問題がないかを確認し、医療機関の安全性向上を図ります。
現在の基幹インフラ制度では、電気事業、ガス事業、石油精製業、金融業、情報通信業、鉄道事業、貨物自動車運送事業など14分野が指定されており、医療分野はこれに加わる形となります。
官民情報共有体制の強化
改正案には、内閣官房に経済安保の調査研究を担うシンクタンクを創設することや、守秘義務を課して官民が情報共有する「官民協議会」の設置も盛り込まれる予定です。国民の個人データなどの流出を防ぐ措置についても議論が進められます。
これは、AI(人工知能)など先端技術の開発競争を含む米中の対立激化や、サイバー攻撃の深刻化など安保環境の変化を踏まえた対応で、政府は法改正が不可欠だと判断しています。
3年見直し規定に基づく改正
経済安保法は3年をメドに必要に応じ見直しを行うと定めており、今回の改正はこの規定に基づくものです。複数の政府関係者によると、政府案を整理し、近く開く有識者会議での意見を踏まえ、内容を詰める方針で、来年の通常国会での法改正を目指しています。
医療機関のサイバーセキュリティ対策は、コロナ禍を経てデジタル化が進む医療現場において喫緊の課題となっています。電子カルテや医療機器のネットワーク化により利便性は向上した一方で、サイバー攻撃の標的になるリスクも高まっており、国民の生命に直結する医療インフラの防護は国家安全保障の観点からも重要な位置づけとなっています。
高市首相が掲げる「危機管理投資」の理念の下、経済安全保障の対象範囲を拡大し、変化する国際情勢と安全保障環境に対応した包括的な制度整備が進められることになります。海外事業支援の拡充と医療分野の防護強化により、日本の経済安全保障体制は新たな段階に入ることが予想されます。