2025-11-04 コメント投稿する ▼
高市政権「危機管理投資」で成長戦略始動も歴代政権の課題克服が鍵
大規模な財政出動を伴う成長戦略は、アベノミクスをはじめ歴代政権で看板を掛け替えつつ実行されてきたものの、期待された効果は上がっていません。 安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」は、金融緩和や財政出動に加え、成長戦略として規制緩和などによる民間投資の喚起策を展開しました。
高市早苗首相は2025年11月4日、政府の経済政策の司令塔となる「日本成長戦略本部」の初会合を開きました。人工知能(AI)・半導体や造船など17分野を重点投資対象として「世界共通の課題」解決に向けた戦略的投資を進める方針です。しかし、大規模な財政出動を伴う成長戦略は、アベノミクスをはじめ歴代政権で看板を掛け替えつつ実行されてきたものの、期待された効果は上がっていません。一時的な予算配分に終わらず、日本経済の足腰強化につながるかが問われています。
「危機管理投資」を成長戦略の核に据える
高市首相は初会合で「税率を上げずに税収を増やすことを目指す」と述べ、増税ではなく所得や企業収益の改善による税収増を目指す方針を表明しました。「成長戦略の肝は危機管理投資だ」と強調し、「リスクや社会課題に対して、先手を打って供給力を抜本的に強化する」と指示しました。
17の重点分野には、AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティー、防衛産業、フュージョンエネルギー(核融合)、重要鉱物などが含まれています。各分野には担当大臣を配置し、複数年度の予算措置を伴う供給力強化策の策定を指示しました。さらに、需要拡大に向けて防衛調達など官公庁による調達や規制改革も検討します。
「新しい産業政策で日本は復活できるでしょうか」
「また予算ばらまきで終わってしまいそうです」
「危機管理投資という名前がついただけで中身は同じ」
「過去の成長戦略がうまくいかなかった理由を分析してほしい」
「今度こそ本当に効果があるのか疑問です」
政府は来年夏に新たな成長戦略をまとめる方針で、一部の施策は策定を急ぐ総合経済対策にも盛り込まれる予定です。高市政権の特徴は、政府が予算面で強力にバックアップするとともに、並行して需要の創出や拡大にも注力することです。
歴代政権の成長戦略はなぜ失敗したのか
成長戦略をめぐっては、歴代政権も多額の予算を投じてきました。安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」は、金融緩和や財政出動に加え、成長戦略として規制緩和などによる民間投資の喚起策を展開しました。2013年から毎年策定された成長戦略は、通商・観光等の分野で進展が見られたものの、生産性の低迷から潜在成長率は高まらなかったのが実情です。
岸田文雄元首相が立ち上げ、石破茂前首相が引き継いだ「新しい資本主義実現会議」は成長と分配の好循環を目指し、税制優遇などで企業に賃上げを促しました。しかし、物価上昇に見合う賃金上昇は実現せず、実質賃金の改善という政策目標のハードルは高いままです。
専門家からは成長戦略の根本的な問題点が指摘されています。経済学者の野口悠紀雄氏は「どの分野が成長できるかは事後的にしか分からない場合が多い」とし、政府による特定分野の選定には限界があると指摘します。経済学者の高橋洋一氏も「なぜ官僚に成長分野がわかるのだろうか。国レベルでのターゲット選定はありえない」と批判しています。
実際、アベノミクス期の景気回復は71か月間と長期に及び、円安・株高の下で雇用改善が進展しました。しかし、日本銀行による異次元金融緩和は2パーセントの物価目標を実現できず、毎年策定された成長戦略も生産性向上につながりませんでした。
高市政権の経済政策は従来路線の延長
大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、高市首相の経済政策について「安保系重視など安倍氏の踏襲も多い一方、バランスをとって賃上げ政策など岸田氏の考えも受け継いでいる」とし、「両氏の経済政策と根本から異なるということはない」と指摘しています。
高市政権は岸田政権の「新しい資本主義実現会議」を廃止し、「日本成長戦略会議」に衣替えしました。「資産運用立国」や賃上げ向けた取り組みは引き継ぎながら、「危機管理投資」を中心とした成長戦略を打ち出しています。しかし、政策の枠組みや手法に大きな違いは見られません。
神田氏は日本の先進分野に対する重点投資に期待をしつつも、「積極財政で名目国内総生産(GDP)は増えても、インフレで実質GDPが増えない状況。財政出動以外の手だても検討する必要がある」と指摘しています。
高市首相が目指す「世界共通の課題」解決に資する製品・サービス・インフラの提供は、確かに日本の成長につながる可能性があります。しかし、過去の成長戦略が期待された効果を上げられなかった根本的な原因を解決しなければ、単なる看板の掛け替えで終わってしまう恐れがあります。真に日本経済の足腰を強化するためには、規制緩和や市場開放といった構造改革への取り組みが不可欠といえるでしょう。