神奈川県横浜市港南区で、引き取り手のない8人の遺体について、火葬までの手続きが大幅に遅れ、最長で約9カ月間安置されたままになっていたことが分かった。原因は区役所の担当職員による対応の遅れで、区側は「多くの時間を要したことは遺憾であり、深くおわび申し上げる」とコメントしている。
一人の係長に業務集中、引き継ぎもうまくいかず
問題が起きたのは、港南区の生活支援課。令和5年(2023年)5月から令和6年(2024年)10月にかけ、警察や病院から「引き取り手のいない遺体」として引き継いだ男女8人分の火葬手続きが、長期間にわたって進められずにいた。
当初は、同課の係長が一人で対応していた。しかし、「最初の遺体の処理がうまく進められず、苦手意識を感じてしまい、他の業務を優先してしまった」と本人は説明している。令和6年10月には上司が業務の引き継ぎを指示したが、実際には引き継がれないまま放置され、状況が動かないままとなっていた。
火葬業者の通報で発覚、800万円の費用が発生
令和7年1月、協力する葬祭業者から「長期間安置されている遺体がある」と生活支援課の別の職員に連絡が入り、初めて事態が明るみに出た。調査の結果、8体の遺体のうち最長で約9カ月にわたって火葬されていなかったことが判明。区は2月上旬までにすべての遺体を火葬した。
だが、長期間の安置には高額な費用がかかり、今回のケースではおよそ800万円が必要だったという。
再発防止へ動き出した区と市
港南区では今回の問題を受けて、今後は警察などから遺体の引き継ぎがあった際には課内で情報を速やかに共有し、2週間に1回の定期会議で進捗状況を確認する体制を整えるという。また、横浜市としても対応マニュアルを新たに作成し、各区に配布した。
無縁遺体、全国で増加する背景とは
実はこうした「無縁遺体」の問題は、横浜市に限らない。全国的にも単身世帯の増加や高齢化が背景にあり、引き取り手のない遺体が年々増えている。中には身元が判明しても、経済的理由や人間関係の断絶から、家族が引き取りを拒否するケースもある。
専門家は「社会の孤立の象徴」と指摘
社会福祉の専門家は「無縁遺体の増加は、家族や地域のつながりが弱まっている現代社会の象徴」と指摘する。その上で、「行政だけに責任を負わせるのではなく、地域やボランティアとの連携も重要だ」と話す。
他自治体の先進事例に学べ
実際に他の自治体では、地域包括支援センターや民生委員との連携によって、孤立死の予防や早期発見に取り組んでいるところもある。ITシステムを活用して業務効率を上げたり、地域住民による遺品整理や供養ボランティアの活動も進んでいる。
問われるのは「仕組み」だけでなく「気付き」
港南区で起きた今回の遅延は、制度やマニュアルの問題だけではなく、現場の「気付き」や職員間のコミュニケーションの欠如も要因となった。孤独に寄り添う行政の在り方が、いま一度問われている。