築74年「廃虚団地」が満室に――北九州DIY再生が示す古民地活用の可能性

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築74年「廃虚団地」が満室に――北九州DIY再生が示す古民地活用の可能性

こうした多様な用途が、この団地の再生を支えている。 こうした中で、民間企業や不動産事業者が古い団地を買い取り、DIY・リノベーションで再生する動きが広がっている。 古い団地を「負債」として切り捨てるのではなく、「資源」と捉え直す発想だ。 老朽化した住宅を「負の遺産」として捨てるのではなく、「再生可能な資源」と見る。

廃虚団地が蘇る――北九州「月1万円賃貸」で満室の背景

築74年の団地が「再生」された経緯


福岡県北九州市門司区にある、かつて「廃虚」と呼ばれていた団地――旧畑田団地。この団地は戦後間もない1951年、福岡県住宅供給公社(供給公社)によって建設された。当時は多くの子育て世帯が暮らし、地域に賑わいをもたらしていた。しかし時代の流れとともに住人が減り、2020年には最後の住人が退去。数年にわたりほぼ空き家のまま放置され、「草が生い茂り、窓や外壁は劣化する、まさに廃墟」の状態だった。

そんな中、福岡市の不動産業者吉浦ビル(以下、吉浦ビル)がこの団地を買い取り、再生プロジェクトを開始した。買い取り価格はわずか90万円という破格だった。2棟合わせて34戸におよぶ広大な団地だ。

この物件を単に格安賃貸として提供するのではなく、「入居者自身が自ら内装を改装する」という大胆な方法を採った。電気・水道・ガスなどのインフラ整備と外壁などの最低限の修繕は吉浦ビルが担当。内部の間取りはあえてスケルトン状態で貸し出し、居住者が自分好みに改装する仕組みだ。材料費などの改修費用も同社が負担する。

この方法は「入居者にとって初期費用ゼロに近く、自分好みの住まいが作れる」「貸す側にとっては改修にまとまった資金を用意する必要がない」という、双方にとってメリットがあった。実際、募集開始からわずか3か月で全戸が成約。団地は見事に「満室」となった。

なぜ「1万円の家賃」でこの団地が成立したか


この団地のもう一つの特徴は、家賃の安さだ。月額わずか1万円。普通の賃貸でこの水準はまずありえない。だが「DIYによる自力再生」という条件下では成立可能だった。住人が自ら改装を担当するため、大家側の負担が大幅に減る。それにより破格の設定が実現した。

入居者には20代の若者から70代の高齢者まで幅広く、単身の若者や年配、あるいは自分の内装にこだわる人など、多様な層が集まった。ある入居者は、自宅でブックカフェを開く準備を進めており、また別の入居者は雑貨店を準備している。こうした多様な用途が、この団地の再生を支えている。

このような事例は決して北九州だけのものではない。全国的に、公営住宅や古い団地の老朽化と空室化は深刻な問題になっている。国の調査では、公営住宅の多くが築30年を超え、公営住宅全体の約7割以上が老朽化の状況にある。

こうした中で、民間企業や不動産事業者が古い団地を買い取り、DIY・リノベーションで再生する動きが広がっている。古い団地を「負債」として切り捨てるのではなく、「資源」と捉え直す発想だ。今回の旧畑田団地の成功は、その可能性を示すものと言える。

古い団地再生の可能性と課題


このような再生モデルは、少子高齢化や人口減少、住宅ストックの老朽化が進む日本の地方都市にとって有望な選択肢だ。公営住宅の維持管理や建替えには多額の費用と時間がかかるが、こうした民間による再生は、コストを抑えつつ住宅を有効活用できる。

特に、DIYやセルフリノベーションに理解がある若い世代や、店舗としての転用を考える人にとっては強い魅力がある。旧畑田団地では、実際にカフェや雑貨店など、多様な用途で活用が始まっており、地域のコミュニティ再生にもつながる可能性がある。

ただし課題もある。古い団地は耐震性や断熱性、基礎構造の老朽化など、安全性や快適性の観点で不安が残ることが多い。また、DIYといっても素人では改装が難しい面もあり、入居者の技術やモチベーションに依存しやすい。材料費を貸し出し側が負担したとしても、工期や安全性の確認など、管理責任の所在があいまいになりやすい。

さらに、このような再生モデルが広がるためには、不動産を貸す側・借りる側双方の理解や協力、そして法制度や安全基準の整備が不可欠だ。単に空室を埋めるだけでなく、「安心して住める住居」としての基盤を整える必要がある。

全国の「空き家/老朽団地」に示すヒント


今回の北九州の事例は、全国の古い団地や空き家問題にとって、大いに参考になる。老朽化した住宅を「負の遺産」として捨てるのではなく、「再生可能な資源」と見る。この視点があれば、コストを抑えつつ、新しい住まいの形や、人々が集う場をつくることができる。

人口減少と高齢化、若者の住宅費負担の増大など社会構造が大きく変化する今、こうした「DIY再生」「民間再生」は、ひとつの答えになり得る。とはいえ、安全性や快適性、住民のスキル、制度や責任の整備――乗り越えるべき壁は少なくない。

それでも、旧畑田団地のように「満室」「再生」「多様な入居者」の実績があるならば、古い団地に再び命を吹き込む価値は十分ある。今後、自治体と民間が協力し、こうした再生プロジェクトが広がるかどうか――日本の住宅問題の重要な試金石になりそうだ。

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2025-12-02 17:58:27(うみ)

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