2025-06-12 コメント投稿する ▼
奈良市の新火葬場「旅立ちの杜」利用2倍に 高額用地取得で住民訴訟も
奈良市火葬場「旅立ちの杜」開設3年で利用倍増も 高額用地購入に住民訴訟の影
奈良市の新火葬場「奈良市斎苑 旅立ちの杜」(横井町)が、令和4年4月の開設から3年を迎えた。市の発表によれば、旧「東山霊苑火葬場」に比べ、13歳以上の火葬件数はほぼ倍増し、市民の市外施設利用も激減した。一方で、用地取得費用の妥当性をめぐる住民訴訟の影は今も消えず、新施設の評価をめぐって市民の間に温度差が広がっている。
火葬場整備は住民生活に直結するインフラ政策でありながら、コストと利便性のバランスが問われやすい領域でもある。「旅立ちの杜」は高性能と高負担の象徴として、奈良市の行政運営における一つの転換点を示している。
旧施設の限界を超えた新斎苑 火葬数2倍、待機ゼロへ
奈良市によると、令和3年度に旧・東山霊苑火葬場で行われた13歳以上の火葬件数は2298件だったのに対し、令和6年度の「旅立ちの杜」では4337件とほぼ2倍に増加。かつては処理能力が1日8件に限られ、希望日での火葬が難しかったが、新施設では22件まで対応可能になり、希望に沿った火葬が可能になったという。
また、旧施設の能力不足により、市民が市外の火葬場に流出していた現象も解消されつつある。3年度には1746件に上った市外利用が、6年度にはわずか168件まで減少。これにより、市民が他自治体施設を利用したことによる超過負担額は約1億4千万円から、約1352万円へと激減した。
「葬儀が希望通りにできるようになったのは助かる」
「家族が亡くなっても地元で送り出せる安心感がある」
「四條畷まで行くのは本当に大変だった」
「前の施設は古すぎたから仕方ない出費だったと思う」
「でも市民の負担にしては高すぎないか?」
住民訴訟に発展した高額用地取得 市の対応に残る不信
このように利便性が大きく改善された一方、「旅立ちの杜」を巡っては、用地取得価格が不当に高かったとして住民団体が提訴。大阪高裁は令和3年、当時の仲川げん市長と元地権者に対し、市に総額約1億1600万円の損害賠償請求を行うよう命じた。
これを受け、市は仲川氏と元地権者に対し訴訟を提起。結果、両者が市にそれぞれ3千万円を支払い、残り約8600万円の債権は放棄するという和解案が令和5年に成立。だがこの和解に対しても、「住民訴訟制度の意義を損なう」として住民団体が再び異議を申し立て、奈良地裁で争われることになった。
今年5月、奈良地裁は住民の請求を棄却。市の和解対応を適法と認定したが、行政に対する市民の不信感が完全に払拭されたとは言い難い。
課題は「透明性」と「説明責任」 信頼回復は道半ば
奈良市としては、市外利用の抑制による経済的効果を前面に打ち出し、「市民負担の軽減」を訴えるが、それだけで施設整備の正当性を主張するには限界がある。そもそもなぜ当初から過大な用地取得が行われたのか、その経緯の説明が市民の納得を得る形でなされてこなかった点が、いまなお批判の的となっている。
さらに問題なのは、市が訴訟で勝ち取った債権を途中で放棄したという点だ。遅延損害金を含む残額約8600万円は、市民からすれば「本来取り戻せるはずだった公金」であり、行政としての説明責任は極めて重い。
今後、同様の大型公共事業を進める際にも、「結果よければ全てよし」とならないよう、情報公開と意思決定過程の検証が不可欠だ。