2025-11-27 コメント投稿する ▼
生活保護再減額と限定補償に批判 白川容子氏が全額補償を要求
同時に示された政府案が「原告にしか追加給付をせず、他の利用者には差額のみ」という形にとどまる点を問題視し、「当時の全ての利用者に対して、減額によって奪われた分を全額補償すべきだ」と主張した。 ある団体は、国に対し謝罪とともに、すべての受給者・元受給者に対する経済的補償、さらに制度設計の見直しと法改正を求めている。
最高裁判決が示した違法性と国の対応
2025年6月27日、最高裁判所(第3小法廷)は、2013年から2015年にかけて実施された厚生労働省(厚労省)による生活扶助基準の大幅引き下げを違法と認定し、当該「保護変更決定」の取り消しを命じた。これは、物価下落を理由とした「デフレ調整(約4.78%減額)」の導入が、専門部会による十分な審議を欠き、「裁量の逸脱・乱用」にあたると判断されたためである。違法判断は初のケースであり、注目された。
ただし、同時に原告らが求めていた国への損害賠償請求は棄却された。判決は「取り消し」を認めたものの、国家賠償までは認めなかった。
これに対し、厚労省は2025年11月21日、新たな対応方針を示した。過去のデフレ調整による4.78%の減額に代わり、新たに別の方式で「2.49%の減額」を適用。加えて、原告と当時の利用者全員に対し差額分を支給し、さらに原告に限って「特別給付金」を上乗せするという内容だ。
この対応により、厚労省は「違法とされた減額分への一定の救済措置を実施する姿勢」を打ち出している。一部の差額を補填し、原告にのみ追加給付を行うことで、制度的な決着を図ろうとしている。
“全額補償を”の声――与野党および支援団体の反発
しかし、この厚労省の案には強い批判がある。 白川容子議員(日本共産党)は11月27日の参院厚労委員会で、「デフレ調整による引き下げは、憲法と生活保護法が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』を下回らせた明らかな違法行為だ」と厳しく批判。同時に示された政府案が「原告にしか追加給付をせず、他の利用者には差額のみ」という形にとどまる点を問題視し、「当時の全ての利用者に対して、減額によって奪われた分を全額補償すべきだ」と主張した。
支援団体や法律専門家も同様の立場を示す。「補償は部分的では不十分」「なぜ別枠で“特別給付金”を原告にのみ出すのか」、「生活保護は最後のセーフティネット。引き下げと補填のどちらも違法だった制度そのものの失敗だ」という厳しい意見がある。ある団体は、国に対し謝罪とともに、すべての受給者・元受給者に対する経済的補償、さらに制度設計の見直しと法改正を求めている。
また、ある支援団体代表は記者会見で「最良の最高裁判決を得たのに、最悪の行政対応だ」と批判した。制度への信頼回復のためには、迅速かつ包括的な補償と制度見直しが不可欠だと訴えている。
補償を求める当事者の声――“おにぎりも買えなかった”
白川議員は、原告から聞き取った実状を委員会で紹介した。「節約を重ねても月末には数十円しか残らず、おにぎり1個すら買えなかった」という切実な声である。これにより、「人間の尊厳の根幹である『健康で文化的な生活』すら維持できなかった」と強調した。
こうした証言は、引き下げの制度的な問題だけでなく、日々の暮らしがいかに逼迫していたかを示すリアルな証左だ。引き下げがただの数字の問題ではなく、命や健康に直結する重大な人権問題だったことが浮き彫りになる。
なぜ「再減額+限定的補償」なのか――国の言い分とその問題点
厚労省による再減額と限定的補償は、判決の「取り消し」を受け止めつつも、財政負担と制度全体の安定性を考慮した妥協案と説明されている。判決では「デフレ調整は違法」とされた一方で、同時に別の調整方法による減額(受給者間の公平を図る「ゆがみ調整」)は直ちに違法とは認定されなかった。厚労省はこの点を重視し、全額復帰は過剰という立場だ。
しかし批判が強いのは、制度の根幹に関わる点だ。違法とされたのに部分的な補償にとどめ、しかも原告だけを優遇するやり方は「公平性」に欠ける。制度の信頼を取り戻すには、最大限の補償と説明責任が必要だ。多くの当事者が判決以前の生活を失い、苦しんだことには変わりない。
また、限定補償を口実に、再び減額の余地を残す制度設計は、「同じ過ちを繰り返す可能性」を孕んでいるとの懸念もある。専門家や支援団体は判決後の検証を強く求めており、第三者による調査・検証委員会の設置を訴えている。
今後の課題――全面補償と制度見直しの是非
今後、最大の焦点になるのは「補償の範囲」と「制度の再設計」だ。違法を認めた最高裁判決を踏まえ、国にはすべての受給者と元受給者に対する全額補償と正式な謝罪が求められている。特に、当時の引き下げで経済的に困窮した世帯に対する速やかな救済は、人権と社会保障の観点から避けられない。
さらに、今後同様の問題を防ぐため、生活保護基準の策定過程を透明化し、専門家や利用者の意見を反映させる制度改革が必要だ。第三者の検証を含む、制度全体の見直しと法改正も検討されるべきだと、支援団体や法曹団体は指摘している。
一方で、政府・厚労省が示した再減額+限定補償案は、財政の都合や制度の安定性を重視した現実的な妥協と見る向きもある。だが、それが「被害者の救済より制度維持」を優先するものであれば、司法判断の重みも、生活保護制度の信頼も根底から揺らぐ。
結局のところ、求められているのは「判決の精神に忠実な補償」と「制度の安全装置としての再設計」である。今後、国会や関係機関でどのような議論が進むかが注目される。