2025-10-17 コメント投稿する ▼
岩屋毅外相が語る中国人観光客ビザ緩和検討中の真意と日本観光の行方
一方で、岩屋外相は「中国からの観光客も、どんどん増えているという状況でございまして、それは喜ばしいことだと思っております」と発言。 観光振興・地域経済の活性化という点では、中国人観光客の増加は非常に大きな意味を持っています。 こうしたなかで観光ビザを緩和するのは、経済的・人的交流という側面だけでなく、外交カード・安全保障リスクの調整策という側面も帯びています。
中国人観光客ビザ緩和、時期未定の焦点
10月17日、外務大臣の 岩屋毅 氏は記者会見で、昨年12月に発表された中国人観光客向けの短期滞在査証(ビザ)緩和措置の実施時期について「様々な情勢も見極めながら、慎重に、今、検討しているところです。」と語りました。
政府が提示した緩和案には、団体観光査証の緩和や10年有効の査証新設が含まれていましたが、具体的な開始日に関しては依然として明示されていません。議院内では慎重な議論が続いており、実施に向けたロードマップも明確には提示されていない実情です。
訪日中国人観光客の急増と経済インパクト
一方で、岩屋外相は「中国からの観光客も、どんどん増えているという状況でございまして、それは喜ばしいことだと思っております」と発言。実際、2025年8月には訪日外国人の数が約342.8万人を記録し、そのうち中国からの来訪者数は約101.9万人と最多でした。(8月時点)
加えて、今年1〜3月の中国からの来訪者数は約236万人に達し、前年同期比で78%の増加を示しています。こうした急伸から、2025年通年では従来の2019年水準を上回る可能性も指摘されています。観光振興・地域経済の活性化という点では、中国人観光客の増加は非常に大きな意味を持っています。
だが「緩和先行」には慎重論も
観光振興の魅力がある一方で、ビザ緩和をめぐる動きには複数の懸念も浮上しています。報じられているところでは、自民党内において「準備が整っていない」「観光客の急増が住民生活やインフラに負荷を与える」という慎重論があるという声もあります。
また、訪日観光客の“数”を増やす施策が先行するあまり、観光地の過密化(オーバーツーリズム)や地域住民との軋みが生まれるリスクも指摘されています。政府としては「丁寧な説明を続ける」としつつも、実効に向けた具体的な土台整備が問われています。
人的交流強化という観点と外交の矛盾
岩屋外相が述べたように「日中関係の基礎は…国民同士の交流にある」との考えには納得できます。観光や人的往来は、政治対話とは違うレベルで信頼を醸成する手段となります。
ただし、日中間には安全保障、海洋問題、歴史認識など未解決の課題が山積しています。例えば、中国による日本人滞在者の拘束や不透明な法運用を巡る問題も輸入水産物規制などを通じてあらわになっています。こうしたなかで観光ビザを緩和するのは、経済的・人的交流という側面だけでなく、外交カード・安全保障リスクの調整策という側面も帯びています。政府が観光促進一辺倒で動くのは危険です。
今後注目すべきポイントと提言
まず、ビザ緩和の実施時期が未定である以上、政府には明確なスケジュール提示が不可欠です。実行力のない宣言だけでは、国民・地域・観光産業側からの信頼を損なう恐れがあります。
次に、観光客の“量”だけではなく“質”を重視すべきだと考えます。地方への波及・地域活性化・消費拡大につなげるためには、宿泊・飲食・交通・免税品など多面的な消費構造を整える必要があります。
さらに、観光振興と並行して地域住民との共生策も強化すべきです。観光地のインフラ強化、混雑緩和、受け入れガイド育成など、“観光客を迎える環境”の質を上げなければ、過負荷や反発が広がりかねません。
そして、観光を外交目的や経済目的のみに置くならば、これはいわゆるポピュリズム外交に転じる危険もあります。国民のための政治を謳うならば、国益説明と透明な法的枠組みを持つ政策でなければなりません。
最後に、観光依存を警戒すべきです。中国人観光客に過度に依存すると、政治・経済・安全保障といった外部変化に対して脆弱となります。東南アジアや欧米諸国からの観光客誘致も念頭に置くべきです。
今回、岩屋毅外相が示した「ビザ緩和は検討中」という発言は、観光振興・日中交流という観点からは前向きな姿勢といえます。一方で、実行時期が定まっておらず、受け入れ環境・地域住民対応・外交安全保障という点で整備が追い付いていないという側面も明確です。
中国人観光客の増加が経済的には喜ばしいものではありますが、観光促進は“数”を追うだけでは十分とは言えません。政府に求められるのは、時期を具体化した緩和制度、受け入れ体制の整備、そして地域・国民の信頼を確かなものとする政策運営です。観光振興も国家運営の一環として、安易な迎合にならぬよう注意が必要です。