2025-10-31 コメント: 3件 ▼
大阪ミナミ観光公害、月100万円の地元負担。低い経済効果なぜ見直さない
日本の観光産業がGDPに占める割合は2パーセントにとどまっており、先進7か国平均の4パーセントの半分である。 観光庁の2024年度補正予算では「オーバーツーリズム対策」として158億2000万円を計上しているが、全体では1081億2000万円中わずか15パーセント程度である。
経済貢献度は過度に誇張されている
日本の観光産業がGDPに占める割合は2パーセントにとどまっており、先進7か国平均の4パーセントの半分である。インバウンド消費額だけ見ても5兆3065億円(2023年)で、国内総生産約562兆円のわずか0.9パーセントに相当する。国内旅行消費は21兆9000億円で、インバウンドのほぼ4.6倍である。つまり、外国人観光客の消費は日本経済全体を見たとき、決して大きな割合を占めていないのだ。
世界旅行ツーリズム協議会の試算によると、日本の旅行・観光分野のGDP寄与率は2023年の6.8パーセント程度で、これは国内旅行と外国人観光を合わせた数字である。外国人観光だけの実質成長率への寄与度は2024年1~3月期で0.1ポイント、4~6月期は0.2ポイント程度に過ぎない。政府が掲げる目標である訪日客6000万人達成時も、GDPに占める観光の割合は2パーセント未満と見込まれている。
地域負担は増加の一途
大阪・ミナミの例は象徴的だ。道頓堀商店会が設置した「IoTスマートごみ箱」は自動圧縮機能を持つ最新技術だが、月100万円の運営費をすべて商店会が負担している。本来は行政が環境美化に責任を持つべき領域だが、訪日客増加に対応する行政投資は追いついていない。朝晩2度の回収でも間に合わなくなるほどごみが増加しており、設置当初のポイ捨て半減効果も時間経過で薄れる傾向が見られている。
横山英幸大阪市長は「地元でフォローしきれない環境美化などの課題がある」と認めており、来年度の予算編成で対策を進める考えを示している。だが、これが具体的にいくら投じられるのか、その根拠は何か、観光消費額との対比でどの程度の割合を占めるのか、といった数字は明示されていない。
同様に京都では、訪日客増加に伴う公共バス混雑に対応するため増便が続いているが、その運営費の増加分がどの程度かは公開されていない。観光庁の2024年度補正予算では「オーバーツーリズム対策」として158億2000万円を計上しているが、全体では1081億2000万円中わずか15パーセント程度である。つまり、観光推進に比べて公害対策への投資は圧倒的に少ないのが現状だ。
透明性を欠いたポピュリズム政策
問題はさらに深い。観光産業を推進する際、国や自治体から「観光消費がいくら」「雇用がいくら」といった数字は繰り返し発表されるが、同時に発生する公害対策費や地域住民の生活環境悪化による隠れた損失についての試算はほぼ出されない。これは透明性を欠いたポピュリズム観光政策そのものである。
海外援助を巡っては「国益説明が必須」という原則があるが、観光政策についても同じ論理が適用されるべきだ。観光消費による利益が誰に、どの程度流れるのか、一方で生じる公害対策費や住民負担が誰に、どの程度かかるのか、その収支を国民に明示する責務がある。
実際のところ、観光消費額のうち大きな割合は宿泊施設や飲食店などの民間事業者に流れ、地方税や国庫への還流は限定的である。一方、ごみ処理、交通混雑対策、公共施設の維持補修、警察・消防の対応強化といった公害対策費は、ほぼ全て地方自治体や国が負担している。
経済効果の透明性が不可欠である。
「観光推進で大儲けしている人がいる一方で、地元住民は迷惑をかぶるだけ。不公平だ」
「インバウンド消費で経済効果があるというなら、その分を公害対策に使うべき。なぜそれをしないのか」
「スーツケースを引いた外国人ばかりで、日本人の生活空間がなくなってきた。これが本当の成長なのか」
「ミナミはもう観光客の街だ。地元民が買い物できる時間がなくなった。駅も混雑で日常使用が難しい」
「観光庁は効果ばかり宣伝するが、地域が払う代償について一度も説明していない」
政策転換の必要性
観光産業を完全に否定する必要はない。だが現在の「とにかくインバウンドを増やす」という政策は根本的に見直されるべきだ。GDP寄与率が2パーセント程度、実質成長率への寄与が0.1~0.2ポイント程度という現実を踏まえ、これ以上の無制限な訪日客増加受け入れは、地域への負荷に見合わないという判断も成り立つ。
北イタリアのヴェネツィアでは、市街地への巨大クルーズ船の乗り入れを制限し、2024年6月から1団体25人制限と入場料5ユーロ徴収を導入した。イタリアのポンペイ遺跡は1日2万人の受け入れ上限を設定した。これらは「観光客を絞る政策」だが、結果として景観保全と地域住民生活の維持に成功している。
日本の観光政策も同様の転換を迫られている。地方への誘客分散は必要だが、その前提として「各地域が本当に受け入れ可能な観光客数は何人なのか」という基礎調査と、公害対策費を含めた真の経済収支試算が必須である。観光産業の利益が集中し、地域住民が負担を被る構造は、結局は観光地としての魅力を損なう。
持続可能な観光地域づくりと名高い政策が、実質的には「観光利益の民間独占」と「公害負担の自治体・住民負担」という構造では、政策転換は避けられない。国民と地域住民に対し、観光産業の真の経済効果と地域負担について、一度徹底した情報公開が行われるべき時が来ている。