2025-07-07 コメント投稿する ▼
防災庁の設置場所に埼玉県が名乗り 大野知事が内閣府へ要望、地盤と交通網をアピール
防災庁誘致を巡る駆け引き 埼玉が打ち出す「最適地」の論拠とは
交通網と地盤の強さで勝負に出た埼玉
2026年度の創設を政府が目指す「防災庁」。その設置場所をめぐり、水面下で各地の誘致合戦が加速する中、埼玉県の大野元裕知事が7月7日、内閣府を訪問し、県内への誘致を正式に要望した。防災庁は災害対策の司令塔として国の対応を一元化する重要機関となるだけに、自治体にとっては「一大誘致案件」だ。
埼玉県が押し出す最大の強みは、「地盤の安定性」と「交通の利便性」だ。大野知事は記者団に対し「首都直下地震などの災害想定でも、東京都に比べ被害が少ないと見られている地域だ。しかも、高速道路が放射状、環状に伸びており、全国各地への物資輸送に有利な地点にある」と語った。
確かに、関越・東北・常磐といった主要高速道が交差する埼玉は、首都圏の物流拠点として古くから評価が高い。首都機能のバックアップという意味でも、防災庁の立地として合理的な根拠はある。
所沢・秩父・本庄…競い合う県内自治体
今回の要望に際しては、県内の複数の市町が独自に政府に誘致を求めている。具体的には、所沢市など5市が連携した要望書を提出。他にも、本庄市を含む1市3町、そして秩父市を中心とする1市4町が、それぞれ異なる地域から防災庁の設置を目指して動いている。大野知事は「この三つの連合体からの要望を、県として一括して政府に届けた」と説明している。
これらの地域にはそれぞれ特色がある。所沢は東京に近く航空自衛隊入間基地を擁する安全保障上の拠点。本庄は新幹線停車駅の利便性に加え、災害リスクが比較的低い地勢。秩父は山間部でありながらも独自の交通網と自治体間の結束を武器にしている。
ただし、これだけ多くの候補地が乱立していることが、かえって「どこに設置するか」という絞り込みに時間を要する可能性もある。県内誘致という大目標は一致していても、「うちこそ最適地だ」と各地域が主張を強めれば、内部での調整も難航しかねない。
国の判断材料と求められる地域間連携
防災庁の設置場所選定において、政府がどのような基準を重視するかは明示されていない。しかし、災害リスク評価、交通アクセス、敷地確保、行政機能の受け入れ態勢などが主要な判断要素となるのは間違いない。
埼玉県はこれらの要素に加え、将来的な庁舎整備や周辺施設の開発余地なども含めて提案を強化していく構えだ。県の担当者は「地元の理解と協力を得る体制が整っている。これからは県全体で誘致機運を高めていく段階だ」と述べている。
一方で、複数の市町がバラバラに動く状況については、「県の一本化調整が急務だ」という声もある。県が先頭に立ち、政府への窓口を一元化することで、戦略的な訴求が可能になる。大野知事自身も「平時の準備や有事に備えた体制づくりに、県がしっかり関与していく」と述べ、旗振り役としての姿勢を強調した。
誘致に期待と冷静な声 ネットでも賛否
埼玉県の本気度が明確になる中、インターネット上でも市民の声が広がっている。誘致への期待と、冷静な評価が入り混じる反応が目立つ。
「関東全体の安全保障考えたら、埼玉が防災庁の立地になるのは理にかなってると思う」
「交通の便は確かにいいけど、どこに建てるかでもめそう」
「所沢か秩父かで県内でも対立しないようにしてほしい」
「防災庁を地方に置くのは賛成。でも県内で候補が乱立するのはちょっと…」
「埼玉の地盤が強いって初めて知った。確かに災害には有利かも」
このように、好意的な見方とともに、計画の不透明さや地域間の足並みの乱れを懸念する声も少なくない。行政としては、こうした市民の感覚も丁寧に汲み取りながら、地域の総力を結集する必要があるだろう。
問われるのは“政治力”と“広報力”
防災庁の設置という国家プロジェクトにおいて、自治体が競り勝つために必要なのは、単なる地理的優位性だけではない。政治力、そして情報発信力こそが最後の決め手となる可能性がある。
今回、要望書を受け取った内閣府の長橋和久防災監は「担当相らにしっかり伝える」と応じたが、それが単なる儀礼的な対応に終わるのか、本気の検討につながるかは、今後の働きかけ次第だ。埼玉県としては、県議会や経済団体、県選出の国会議員らと連携しながら、政府内での議論に影響を与えていく必要がある。
また、地元メディアやSNSを通じて誘致の意義を積極的に発信し、県民の理解と支援を得ることも不可欠だ。「災害に強い埼玉」というブランドをどこまで磨き上げ、全国に示していけるか。その先に、防災庁設置という大きな果実が待っている。