2025-11-26 コメント投稿する ▼
退職自衛官が農業参入で食料安全保障強化、政府も本腰支援体制整備
国を外敵から守る防衛と、国民の食を守る安全保障には深い親和性があるという理念のもと、退職自衛官の農業参入を支援する先駆的な活動が注目を集めています。 農業自衛隊の取り組みが示すのは、食料安全保障と国防が不可分の関係にあるという現実です。
高齢化が進む農業界に、新たな希望の光が差し込んでいます。千葉県多古町を拠点に活動する「農業自衛隊」は、陸上自衛隊の松上信一郎さん(50)を「司令」として、現役自衛官や会社員の5人で構成される画期的な取り組みです。国を外敵から守る防衛と、国民の食を守る安全保障には深い親和性があるという理念のもと、退職自衛官の農業参入を支援する先駆的な活動が注目を集めています。
深刻化する農業の担い手不足と食料安全保障への脅威
農林水産省の統計によると、基幹的農業従事者は2015年の175.7万人から2023年には116.4万人へと約35%減少し、平均年齢は68.4歳に達しています。特に米農家に至っては平均年齢が70歳となっており、農業経営体数は2020年の107万から2050年には約18万まで激減する見通しです。
この深刻な状況に対し、2025年6月6日に農林水産省と防衛省が「農林水産業及び自衛隊における人材確保の取組に係る申合せ」を締結しました。退職自衛官の年間7,600人という豊富な人材を農業分野に誘導することで、両業界の人材不足解決を目指す国を挙げた取り組みが本格化しています。
「土に触れて心地よい空気を感じ、生産者との距離も近くなった」
「これまでの訓練で培った体力と精神力を農業で活かしたい」
「チームワークを重視する自衛隊の経験が農業にも活かせると思う」
「国を守る仕事から食料を守る仕事への転換は自然な流れ」
「将来的に田舎暮らしを希望していたので農業は理想的」
退職自衛官が農業に最適な理由
防衛省によると、自衛官の退職は若年定年制で50代半ば、任期制で20~30代半ばという比較的若い年齢で行われます。厳しい訓練で培われた体力・精神力・協調性に加え、各種機械の運転技能や資格を持つ退職自衛官は、農業の新たな担い手として極めて有望です。
現状では退職自衛官の再就職先として、農林水産業は若年定年者で0.6%、任期満了者で1.1%にとどまっています。しかし、松上さんが指摘するように「若くて体力のある退職自衛官がチームで就農すれば存分に力を発揮できる」のです。実際、北海道では道庁や自衛隊、JAが連携した退職自衛官向けの農業体験・説明会が各地で開催され、成果を上げています。
政府も本腰を入れた支援体制整備
石破茂首相は2025年3月に「退職自衛官の就農促進に向けて農業大学校の授業料減免などを検討する」と表明しました。防衛省と農林水産省の連携申合せには、JA全中や日本農業法人協会など主要農業団体も参加し、防衛省における農林水産業に関する職業訓練の充実・強化が盛り込まれています。
現在、就農準備資金として年間最大150万円を2年間、経営開始資金として年間最大150万円を3年間交付する制度があります。退職自衛官がこれらの支援制度を活用すれば、農業参入の初期負担を大幅に軽減できます。
食料安全保障と国防の一体的強化
農業自衛隊の取り組みが示すのは、食料安全保障と国防が不可分の関係にあるという現実です。日本の食料自給率は38%と主要先進国で最低水準にあり、国際情勢の変化や気候変動により食料供給が脅威にさらされる可能性があります。
2030年までに農業経営体数が半減するとの予測もある中、国防に貢献した退職自衛官が第二の人生で食料安全保障を担うという構図は、まさに理想的な人材循環システムといえます。松上さんらが目指す多古米グランプリ大会への参戦は、技術習得だけでなく地域農業への本格的な貢献を象徴しています。
全国展開への課題と展望
農業自衛隊のモデルを全国に広げるためには、いくつかの課題があります。農地確保の困難さ、農機具購入費の高額化、農業技術の習得期間などです。しかし、政府の省庁横断的な支援体制が整備されつつあり、具体的な制度設計が急ピッチで進んでいます。
特に重要なのは、退職自衛官の持つ組織運営能力や機械操作技能を農業で最大限活用できる環境整備です。多古町での取り組みが示すように、地域農家との連携と指導を通じて、短期間での技術習得と地域貢献の両立が可能になります。
農業自衛隊の挑戦は、単なる就農支援を超えた国家戦略の一環です。国防と食料安全保障の融合により、真の国力強化を実現する革新的な取り組みとして、その成果が全国に波及することが期待されます。退職自衛官という優秀な人材を活用した農業再生は、日本の未来を切り開く重要な鍵となるでしょう。