2025-12-04 コメント投稿する ▼
維新が提言したOTC類似薬見直しと医療制度改革の全貌
維新案では、こうした薬を「保険の対象外、または自己負担を実質的に増やす対象」にすることで、医療給付の無駄を削り、医療費の抑制を狙います。 保険適用除外で本来医師に診てもらうべき患者が自己判断で市販薬を使うことで、結果として医療費の増大や健康被害の可能性がある点を指摘しています。
維新が示した社会保障改革の全体像
来年度の予算編成をにらみ、日本維新の会(以下「維新」)が2025年12月4日、高市早苗 首相(以下「高市総理」)に対して提出した提言では、医療・介護など社会保障制度の抜本改革を柱と位置付けています。中でも注目されたのが、一般に市販されている薬や成分が似ているにも関わらず処方箋の必要な「OTC類似薬」について、現行の保険適用を見直すという大胆な方針です。維新はこれにより、数千億円規模の医療費削減が可能になると主張しています。
また、この提言には以下のような項目も含まれています。高齢者の医療負担を軽減する目的で導入された「外来特例」の縮減や廃止の見据え。医療機関の種類(病院と診療所)による診療報酬体系の再構築。そして、後発医薬品の使用促進や地域ごとの医薬品リスト「地域フォーミュラリ」の全国展開。維新はこれらを「限られた医療財源を、重症・高額医療に振り向けるための合理化策」と位置づけています。
維新政策の賛否は別として、この提言は単なる“見直し案”ではなく、社会保障制度の方向性そのものを変えようとする「構造改革」の一環です。維新の斎藤アレックス政調会長も、「このままでは制度も国民生活も持たない」と危機感を強調しました。
OTC類似薬見直しの狙いと論点
OTC類似薬は、かぜ薬、胃腸薬、湿布薬など、一般に市販のOTC薬と成分や効能が重なりやすい医療用処方薬を指します。維新案では、こうした薬を「保険の対象外、または自己負担を実質的に増やす対象」にすることで、医療給付の無駄を削り、医療費の抑制を狙います。
実際、医療保険の財政圧迫は深刻です。高齢化とともに医療需要が増え、高額薬剤の普及も医療費全体を押し上げています。維新は、特に「セルフメディケーションが可能で、かつ費用対効果の低い医療用薬品」に関しては、自己負担の拡大や保険給付の除外を進めるべきだと主張しています。
ただし、この見直しには大きな懸念もあります。例えば、患者の自己判断で薬を買う機会が増え、かぜや胃腸の軽い症状だけでなく、慢性疾患や持病の患者が医師の診察なしで薬を選ぶことで、病状が悪化するリスクもあるのです。医療のセーフティネットとしての保険の役割が損なわれる可能性があります。
これについて、健康保険組合連合会はすでに「OTC医薬品に代替可能な医療用医薬品や簡易な検査について、保険給付除外または給付割合見直しを検討すべき」との提言を出しており、費用対効果・経済性の観点から見直しの必要性には一定の理解があります。
一方、日本医師会(日医)の側は強く慎重な姿勢を示しています。日医の薬事担当理事は「保険除外によって重大な危険性がある」と述べ、制度見直しに対して反対の立場を明らかにしました。保険適用除外で本来医師に診てもらうべき患者が自己判断で市販薬を使うことで、結果として医療費の増大や健康被害の可能性がある点を指摘しています。
高齢者負担軽減「外来特例」の見直しと診療報酬の再構築
維新の提言には、OTC類似薬の見直しだけでなく、70歳以上の年収約370万円未満を対象とした「外来特例」の段階的縮小・廃止も盛り込まれています。これは社会保障の支出削減を狙う一方、制度の公平性と持続性を図る構想です。
加えて、病院と診療所間の経営構造の違いも考慮したうえで、診療報酬体系の「抜本的見直し」を要求。高度医療を担う大病院への報酬維持・安定化を図る反面、軽症患者が多い診療所にはコスト負担の見合いを求める狙いです。これもまた、限られた医療財源を効率的に使おうという改革の一環です。
維新の改革と社会的反発――見直しの先にあるもの
維新が目指す医療費の削減や社会保障費の抑制は、確かに今の高齢化・少子化・医療費高騰を前にすると必要とされる側面があります。特に、医療の「効率化」と「費用対効果」に注目することで、本当に必要な医療・薬・医療提供体制に資源を集中させることも可能です。
しかし同時に、「誰でも安心して医療を受けられる国民皆保険制度」の根幹を揺るがす可能性もあります。OTC類似薬の保険適用除外が進めば、体調不良時に医師の診断を受けづらくなり、自己判断で市販薬を選ぶ人が増える。結果として軽視された病気が重症化し、かえって医療費が膨らむリスクも否定できません。日医や医療現場の反発が強いのも、こうした懸念があるからです。
また、「高齢者への負担増」や「診療所の経営悪化」による地域医療の空洞化という逆風も予想されます。特に地方では、診療所が住民にとって最後の砦であるケースも少なくありません。
このように、維新の提言は「医療財政の持続可能性」を追求する一方で、「医療へのアクセス」「医療の安心感」「地域医療の維持」といった価値とのバランスをいかに取るかという難題に直面しています。
今後の展望と課題
維新の提言は、12月にスタートした自民党と維新の「社会保障制度改革協議体」で議論される見込みです。協議は週1回のペースで進むとされ、年内に一定の合意を目指すと報じられています。
今後の焦点は、どこまで「保険給付の見直し」を受け入れるか。特にOTC類似薬の扱いや外来特例の縮小、診療報酬の再編などは、政策効果と国民の反発、大病院と診療所、都市部と地方の医療アクセスの格差という難しい兼ね合いにあります。
また、制度変更を行うならば、保険除外や自己負担増加による影響を受けやすい世帯、低所得者、慢性疾患患者、高齢者らへの配慮策をどう担保するかも問われるでしょう。改革の「出口」をどう設計するかが、国民の命と暮らしに直結します。
個人的に言えば、医療費の節減は必要ですが、安易な「保険除外」で医療の最前線が揺らぐなら本末転倒です。医療の一律な切り捨てではなく、「本当に必要な医療」と「自己判断で済む薬」の境界を慎重に見極める制度設計が求められます。