2025-10-24 コメント投稿する ▼
三重県アスリート盗撮性暴力条例成立、全国的に珍しい先進的取り組み
2025年10月27日に施行されるこの条例は、全国的に見ても珍しい先進的な取り組みである一方、罰則がないことや盗撮の意図判定の難しさなど、実効性に関して課題が残っています。 福岡県、茨城県に次いでの制定となりますが、アスリート盗撮を明文化して性暴力と定義した条例は、全国的に見ても珍しいとされています。
スポーツ界の深刻化するアスリート盗撮被害への対応
近年、スポーツの現場で女子選手を中心にアスリートの盗撮被害が相次いでいます。特に女子バレーボール、新体操、陸上競技などで、ユニホーム姿の選手が性的な意図で隠し撮りされる事案が増加しており、被害選手の心理的負担が深刻化しています。
従来の盗撮対策では、2023年に「性的姿態撮影罪」が新設されましたが、ユニホーム姿での撮影は対象外とされているという制度上の空白がありました。これが、スポーツの現場での盗撮被害を十分に抑止できない要因の一つになっていたのです。
三重県が今回、アスリート盗撮を明確に「性暴力」と定義したのは、この制度上の空白を埋め、被害防止に向けた社会的認識を高めるための重要な一歩と評価できます。条例が全会一致で可決されたという事実は、超党派での共通認識が形成されていることを示しており、この課題への社会的な関心の高さを物語っています。
全国的に珍しい先進的な取り組み
三重県の条例は、全国でも3番目となる性暴力根絶条例です。福岡県、茨城県に次いでの制定となりますが、アスリート盗撮を明文化して性暴力と定義した条例は、全国的に見ても珍しいとされています。
条例の内容では、学校やスポーツ施設、公共交通機関など不特定多数の人が利用する場所で、性的な意図を持って同意や正当な理由なく姿態や部位を撮影する行為を明確に規定しています。さらに、県の責務として「根絶を目指す施策を総合的に策定し実施する」ことを明記しており、単なる宣言的な条例ではなく、具体的な施策実施を伴う条例として構成されています。
事業者に対しても努力義務を課し、スポーツ施設の管理者や大会主催者が盗撮防止のための措置を講じることが期待されています。この仕組みは、行政だけでなく社会全体で問題に取り組む体制を構築しようとするものであり、性暴力対策における新しいアプローチと言えます。
「やっとスポーツ現場での盗撮が性暴力と認識された。被害者の心理的負担が軽減されるといい」
「他の都道府県も続くべき。全国一律の対応が必要だ」
「条例があるだけでも抑止効果がある。広報活動を期待する」
「罰則がないのが残念だが、一歩前進と評価できる」
「女性選手の安全なスポーツ環境が実現することを望む」
罰則がないことによる実効性の課題
一方で、この条例には重要な課題も残っています。最も大きなのは、罰則規定がないという点です。条例で「性暴力」と定義されても、実際に盗撮に及んだ者に対して法的な処罰が科せられないままでは、抑止力としての機能が限定的になる可能性があります。
三重県は「性暴力と示すことで被害防止につなげたい」としており、規範的効果や認識向上を重視する立場を示しています。しかし、実際のスポーツ現場では、罰則がなければ盗撮者に対する対応が曖昧になる可能性が高いです。
警察との連携や既存の刑法との関係性も不明確なままであり、罰則がない中で実際にどのような取り締まりが行われるのか、その具体的方法が明示されていないという課題があります。条例の実効性を高めるには、今後、具体的な運用マニュアルの作成や、警察との情報共有体制の構築が不可欠です。
盗撮目的の判定が難しい現場の実態
さらに重要な課題として、盗撮目的かどうかの判定が現場で困難であるという点があります。スポーツ施設では、正当な理由での撮影(公式記録、メディア取材、家族による応援記録など)と盗撮の区別が必ずしも明確ではありません。
例えば、女子選手の競技中の写真を撮影している人物がいた場合、その人物が「性的な意図」を持っているかどうかを、現場の施設管理者が判断することは極めて困難です。装備や行動だけからは、正当な記録撮影なのか、性的目的での撮影なのかを区別することは実質的に不可能に近いのです。
これは条例施行後の現場運用における実務的な課題として、大きな障害になる可能性があります。施設管理者の判断基準が不明確なままでは、過度な介入と過少な対応が混在するリスクが高いのです。
全国への波及と法制面での整備の必要性
三重県の条例成立は、全国的な波及を促す可能性があります。既に福岡県や茨城県が同様の条例を制定しており、三重県がこれに続いたことで、他県でも同様の取り組みが加速する可能性が高いです。
しかし、各県の個別の条例では、全国的な統一性が欠けるという問題もあります。本来であれば、2023年の「性的姿態撮影罪」の改正時に、ユニホーム姿での撮影も対象に含めるべきだったというのが一般的な評価です。
三重県の条例は、こうした国の法制面での不十分さを補う形での地方議員による対応であり、その意義は認められます。しかし、根本的な解決には、国会での刑法改正やスポーツ関連法の整備が必要です。地方自治体の条例だけでなく、国家レベルでの法制度の構築こそが、アスリートの盗撮被害を根絶する最終的な道筋なのです。
今後の課題:具体的な施策実施と罰則の検討
三重県の条例が実効性を持つには、今後いくつかの課題に取り組む必要があります。
第一に、盗撮目的を判定するための具体的基準の策定が急務です。現場の施設管理者が適切に判断できるよう、わかりやすい判定マニュアルの作成が求められます。
第二に、警察との連携体制の強化です。盗撮被害が確認された場合、刑法235条(迷惑行為罪)や都道府県の迷惑防止条例との関係性を明確にし、スムーズな通報体制と捜査態勢の構築が必要です。
第三に、将来的な罰則規定の検討です。現在は努力義務にとどめられていますが、条例の実施状況を踏まえて、必要に応じて罰則規定の追加を視野に入れるべきです。