6日に投開票された秋田県知事選で、無所属の新人候補、鈴木健太氏(49)が初当選を果たした。陸上自衛隊出身という異色の経歴を持つ鈴木氏は、「自衛隊で培ったリーダーシップと危機管理能力を、県政の現場で存分に生かしたい」と意欲を語る。自衛官出身の知事は、宮城県の村井嘉浩知事(64)に続いて全国で2人目だ。
震災、自衛隊、司法書士、そして政治家へ
神戸市で育ち、阪神淡路大震災を浪人中に経験したことが人生を大きく変えた。瓦礫の中で懸命に救助活動をする自衛隊の姿に心を打たれ、京都大学法学部卒業後、陸上自衛隊に入隊。幹部候補生学校での厳しい訓練を経て、第16普通科連隊に配属された。
その後、国際派遣部隊の一員として東ティモールやイラクに派遣され、現地で治安維持や人道支援に携わった。イラクでは、頭上を迫撃砲が飛び交う危険な状況も体験したという。
「命の重みを感じたからこそ、今ある日常を大切にしたい」。そう語る鈴木氏は2006年、自衛隊を退職し、秋田市に移住。司法書士資格を取得し、地域に根ざした暮らしを始めた。政治の道に進んだのは2015年。秋田市選挙区から県議に初当選し、以降は3期連続で議席を守った。自民党県連では青年局長、政調会長、副議長を歴任。今回の知事選には、自民党を離党して無所属で挑んだ。
「防災のプロ」としての手腕に期待
選挙戦では、人口減少対策や防災体制の強化を前面に掲げた。4人の子どもの父親でもある鈴木氏は、「秋田の未来をあきらめない」と力強く訴えた。
「東ティモールでもイラクでも、生死の境を何度も越えてきた。多少のことでは動じない。だからこそ、災害時にも冷静に判断し、県民の命と暮らしを守る自信がある」と、防災のプロとしての覚悟もにじませる。
陸上自衛隊で大部隊の指揮・統率を経験してきた鈴木氏は、組織マネジメントにも自信をのぞかせる。「上に立つ者ほど、謙虚に身を律するべき。職員との対話を重ね、現場の声をきちんと拾っていく」と話した。
「人口減少は止められる」 挑む秋田の未来
秋田県は高齢化と人口流出に歯止めがかからず、全国でも最も厳しい人口減少に直面している。鈴木氏は「自然な出会いや結婚を支援し、秋田に戻ってきやすい環境を整えたい」と、若者や子育て世代を支える政策に力を入れる考えだ。
再生可能エネルギーの活用や観光資源の磨き上げ、農林水産業の再活性化など、地域資源を活かした成長戦略も視野に入れている。
自衛隊という異なるフィールドから飛び込んだ地方行政の世界。防災、人口減少、経済振興と、課題は山積みだが、現場で鍛え上げた胆力と実行力で、新たな県政のかじ取り役を担っていく。