茨城県はこのほど、県内の20市町村と栃木県野木町を合わせた計21自治体と、水道事業の経営を統合するための基本協定を結んだ。背景には、人口減少による料金収入の減少や、水道施設の老朽化といった喫緊の課題がある。統合によって施設の集約や業務の効率化を進め、将来的な水道料金の値上げを抑えることが狙いだ。
県境をまたぐ水道事業の統合は全国でも初めて。茨城県の大井川和彦知事は「市町村だけではもはや限界。広域で手を組まなければ、持続的な水の供給は難しい」と語る。
経営統合の背景と狙い
- 人口減少で水の需要が減り、水道事業の収支は全国的に厳しさを増している。
- 一方で、施設の老朽化は進み、更新や耐震化などのコストは年々膨らむばかり。
- 技術者の確保も難しくなっており、小規模自治体では運営自体が危ぶまれている。
茨城県はこうした状況を踏まえ、令和4年に「県水道ビジョン」を策定。持続可能な水道事業の実現に向けて、市町村とともに広域連携の協議を重ねてきた。長年、茨城県古河市と浄水場を共有してきた栃木県野木町も自然な形でこの枠組みに加わることとなった。
期待される効果は1000億円超
統合による経済効果は、金額にして実に1137億円以上にのぼると試算されている。
- 小規模な浄水場を統廃合することで、令和3年度時点で118あった施設を、52年度には53にまで減らす計画。
- これにより、浄水施設の統合で約386億円、維持管理費の削減で約95億円、人件費の効率化で94億円、AIによる電力削減で20億円の削減が見込まれる。
- さらに、広域連携を進めることで、国の交付金として542億円の確保も期待されている。
料金は当面、各市町村ごとに
2月26日に水戸市で行われた締結式には、参加する21自治体の首長が出席。大井川知事は「水道事業の持続可能性を高める大きな一歩」と意義を語った。
協定には以下の内容が盛り込まれている。
- 統合後の経営主体は茨城県企業局とする
- 統合の目標時期は3年以内
- 水道料金は当面、各市町村の設定を維持し、統一はしない
今後は法定協議会を設け、施設の運用や財政管理などの詳細を詰めていく。
一部自治体は単独経営を継続
一方で、土浦市や鹿嶋市など12の事業体は現在も参加を検討中で、今後締結する可能性があるとされている。
ただし、水戸市や日立市、つくば市など10の事業体は「統合には参加せず、今後も単独で運営していく」との姿勢を崩していない。水戸市では試算の結果、統合に加わるよりも単独で経営した方が将来的な料金上昇を抑えられるとの結論に至ったという。
高橋靖・水戸市長は「財務状況が異なる自治体と一緒になることで、逆に水戸市民の負担が大きくなってしまう」として慎重な姿勢を示す。
今後の焦点は参加拡大と住民理解
大井川知事は「まずは21自治体でスタートを切ることが大事。しっかり成果を出して、さらに多くの自治体に加わってもらえるようにしたい」と展望を語る。
水道は生活に欠かせないインフラであり、その安定供給には巨額の投資と持続可能な経営体制が欠かせない。今回のような統合は、全国の自治体にとっても他人事ではない。人口減少社会にあって、安心・安全な水をいかに次世代に引き継ぐか――茨城県の挑戦は、そのモデルケースとなるかもしれない。