兵庫県の政治混乱が長引いている。その震源地となったのは昨年3月、兵庫県元西播磨県民局長が斎藤元彦知事(47)やその側近らを告発する文書を県議会や報道機関にばらまいた、いわゆる『文書問題』だった。県議会が百条委員会を設置し、第三者委員会が調査を行ったものの、混乱はいまだ収まっていない。
さらに、この騒動に拍車をかけた存在として注目されているのが「NHKから国民を守る党」(政治家女子48党)の立花孝志氏(57)である。昨年の兵庫県知事選をめぐって、SNSを通じて虚偽情報を拡散したり、県議への脅迫めいた演説を行うなど、数々の問題行動が指摘されてきた。だが、こうした行動に対する警察の具体的な動きは、未だはっきりしていない。
『報道特集』の報道内容をめぐり立花氏が反発
そんな立花氏が現在、強く反発しているのが、TBS系のニュース番組『報道特集』だ。同番組は、兵庫県知事選における混乱やその後の経緯を詳しく追及しているが、3月15日の放送で特に立花氏に注目。NHK集金人への暴行事件や、兵庫県議会議員・奥谷謙一氏の自宅前で行った過激な演説の動画などを紹介した。
放送後、立花氏は自身のYouTubeチャンネルで激怒。「裁判はせず、BPO(放送倫理・番組向上機構)に訴えます。選挙期間中、しかも投票日前日に明らかなネガティブキャンペーンを行った。事実とも異なる内容がある」と述べ、その後、本当にBPOへ電話をかけて苦情を伝える動画まで公開した。
専門家は「問題ない」と指摘
だが、この『報道特集』の内容は本当に選挙妨害にあたるのだろうか。放送法に詳しい専門家たちは、必ずしもそうとは言えないとの見方を示している。
元テレビ朝日法務部長で、現在は弁護士の西脇亨輔氏はこう述べている。
「放送法は選挙期間中だからといって報道の仕方を規制していません。報道機関には、候補者の問題点をチェックし、それを公正に伝える義務があります。それが選挙に多少の影響を与えたとしても、放送倫理上は何の問題もありません」
BPOも過去に「公平とは機械的な平等ではない」と見解
実際、2017年にBPOは選挙期間中の報道に関する意見書を発表している。その中で、「虚偽や事実の歪曲がない限り、候補者に不利になるような報道をしたとしても問題はない」と明記している。さらに、「候補者や政党の主張が事実に基づいているかをチェックし、問題点を伝えることはマスメディアの重要な役割である」とも述べている。
報道機関が避けてきた「リスク」
しかし、なぜこれまで選挙期間中、メディアは候補者についての報道を控えることが多かったのだろうか。西脇氏によれば、「候補者を均等に扱い、無難な報道をしていれば批判されるリスクが少ないため、報道機関が『ラク』をしてきた」ことが大きな理由だという。
「今回の兵庫県知事選では、そうした姿勢を超えて、『報道特集』が踏み込んだ報道をしたわけです。選挙後に表面化する問題よりも、選挙期間中にきちんと事実を伝えるほうが、メディアとしては本来あるべき姿です」と西脇氏は評価した。
残された疑問、報道は変われるのか
今回、立花氏がBPOへ申し立てを行ったことで、『報道特集』の報道姿勢が改めて議論の対象となっている。立花氏の主張が受け入れられる可能性は低いという見方が専門家の間では強いが、これを機に、テレビメディアが「機械的な平等」から脱却し、より積極的に踏み込んだ報道を展開できるかどうかが問われている。
BPOの意見書では、こう締めくくっている。
「民主主義の危機ともいうべき時代にあって、放送に携わる一人ひとりが臆することなく、有権者に選挙の意味を訴えることが求められている」
今回の騒動は、メディアが本来の役割を取り戻すきっかけとなるのか。その行方に注目が集まっている。