2025-11-05 コメント投稿する ▼
田村智子委員長代表質問を徹底解説―労働分配率51年ぶり低水準で大企業優遇追及
しかし高市首相は、地位協定を首脳会談で取り上げなかったことを認めただけで、トランプ氏の核実験発言に抗議する姿勢を一切示さず、気候変動に対する発言にも「コメントする立場にはない」と逃げるなど、深刻な対米従属の姿勢に終始した。
この代表質問は、国民生活の実態と政府の政策のかい離を具体的なデータで明らかにし、真に国民のための政治への転換を求める重要な内容となった。
労働分配率51年ぶり低水準の衝撃
田村氏が最も重視したのは、2024年度の労働分配率が53.9%と1973年度以来51年ぶりの低水準となった現実だ。労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち賃金や福利厚生費として労働者に分配される割合を示す指標で、経済における分配の公正性を測る重要な数値である。
特に深刻なのは大企業の状況だ。田村氏は「大企業の労働分配率は2012年度の53.4%から2024年度は37.4%へと急降下した」と指摘。同じ12年間で、大企業の純利益は4.6倍、株主配当は2.8倍に増加し、内部留保は200兆円以上増えて561兆円に達した実態を明らかにした。
「働いても働いても給料が上がらない。これでは生活できません」
「企業は過去最高益なのに、なぜ賃上げに回らないのでしょうか」
「内部留保にばかり回すのはおかしい」
「株主への配当は増えるのに、働く人への還元がないのは不公平」
「政治が企業に働きかけるべきです」
この数字が示すのは、働く人が生み出した富が賃上げに回らず、株主への配当と大企業のため込みに流れているという深刻な構造だ。田村氏は「労働分配率の急降下は異常だ」と強調し、「大企業の内部留保の一部に課税して中小企業への賃上げ直接支援に充てる」ことを提案した。
高市首相の回答は後ろ向き
これに対する高市首相の答弁は極めて消極的だった。労働分配率の低下は認めたものの、内部留保への課税については「二重課税に当たるとの指摘もあることから慎重な検討が必要だ」と否定した。
しかし田村氏の指摘は理にかなっている。企業の内部留保は2024年度末時点で636兆円と過去最高を更新しており、第二次安倍政権発足時の2012年度から約2倍に膨れ上がった。一方で人件費の伸びは限定的で、賃上げによる経済の好循環は道半ばの状況が続いている。
労働時間規制緩和への危険な動き
田村氏はさらに、高市首相が就任早々に「労働時間規制の緩和の検討」を指示したことを厳しく批判した。これは経団連の要望に呼応した長時間労働を強いる労働法制の規制緩和を行うものだと指摘した。
厚生労働省の資料では、「月平均80時間という残業規制を超えて働きたい労働者はわずか0.1%だった」ことを示し、「それでも規制緩和をするのか」と追及。長時間労働による命と健康への被害が近年急増していることも指摘し、「賃上げと一体で労働時間の短縮こそが目指すべき大方針ではないのか」と提案した。
しかし高市首相は「厚労相などに心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制緩和の検討を行うよう指示をした」と述べるだけで、労働時間の短縮には全く言及しなかった。
医療崩壊を招く社会保障削減
医療分野では、病院の6割が赤字で倒産や閉鎖も相次ぐ医療危機を取り上げた。田村氏は、社会保障抑制のもと人件費や物価高騰に全く見合わない診療報酬にとどめてきた政府の失策が原因だと批判した。
特に問題視したのは、「維新との合意で医療への公費を4兆円削減したら、患者の自己負担は激増し、医療基盤が崩壊しかねない」点だ。高市首相はOTC類似薬の保険適用外しや病床11万床削減などを盛り込んだ維新との連立合意に沿って、社会保障を切り捨てる姿勢を明確に示した。
対米従属の軍事費拡大を追及
外交・防衛分野では、高市首相が10月28日の日米首脳会談で国民への説明もないまま軍事強化を対米公約したことを厳しく批判した。
トランプ米政権がGDP比3.5%の水準への軍事費増額を要求する中で、首相が「防衛力強化と防衛予算増額に取り組む」と表明したことについて、田村氏は「米の要求を受け入れることになるのではないか」と指摘。
さらに高市首相が所信表明で、自民党が参院選で公約に掲げてさえいなかったGDP比2%への軍事費増額を2年前倒しし今年度中に達成すると表明したことを批判。「暮らしに関わる重大問題をなぜ勝手に会談で持ち出し、対米公約したのか。国民不在の対米従属外交そのものだ」と厳しく指摘した。
トランプ政権への無批判な追随
特に深刻な問題として取り上げたのが、トランプ氏の危険な政策への日本政府の無批判な追随だ。
田村氏は、在日米軍兵士による性犯罪が多発し、沖縄県などで市民や自治体から強い抗議と日米地位協定改定の声が上がっているにもかかわらず、首脳会談でこうした問題に言及しなかったことを追及。
さらに会談直後に「核実験の再開」を指示したトランプ氏に対し、「唯一の戦争被爆国として抗議し、核実験をやめるよう要請すべきだ」と求めた。トランプ氏は2025年10月30日、自身のSNSで国防総省に核実験の即時開始を指示したと表明しており、1992年以来停止されてきた米国の核実験モラトリアムを覆す可能性がある危険な発言だった。
また、トランプ氏が国連総会でパリ協定による気候変動対策を「世界史上最大の詐欺」と罵倒するなど、気候危機打開のための国際的な取り組みを妨害していることも指摘した。
しかし高市首相は、地位協定を首脳会談で取り上げなかったことを認めただけで、トランプ氏の核実験発言に抗議する姿勢を一切示さず、気候変動に対する発言にも「コメントする立場にはない」と逃げるなど、深刻な対米従属の姿勢に終始した。
国会議員定数削減の危険な狙い
自民・維新の政権合意で突如持ち出された衆院議員定数の削減についても、田村氏は鋭く問題点を指摘した。
衆院総定数は戦後80年で最も少ない水準で、人口100万人当たりの国会議員定数はOECD加盟38カ国中36番目の少なさだ。田村氏は「定数削減の積極的理由や理論的根拠は見いだし難い」として、2016年の国会論戦の結論を無視して政権与党が突如定数削減を持ち出すこと自体が問題だと批判した。
さらに重要なのは、維新の吉村洋文代表が憲法9条改憲、大軍拡、「スパイ防止法」制定、医療費4兆円削減など自民・維新合意実現の突破口が定数削減だと明言していることだ。田村氏は「国民の反対意見を国会から排除する宣言にほかならない」と指摘し、「定数削減反対の一点で広範な世論を結集し、各党・会派、議員の皆さんとも共同し、危険なたくらみを打ち砕くために全力を尽くす」と表明した。
消費税減税への国民の期待
物価高騰対策では、消費税減税を求める国民の声に真正面から向き合うよう求めた。
田村氏は、物価高騰が止まらず実質賃金も前年同月を下回り続ける中で、自民党が"減税より給付金だ"と主張し参院選で過半数割れとなった事実を指摘。「消費税減税を求める議員が国会の多数となった」と強調し、高市首相が給付金は「国民の理解が得られなかったことから実施しない」と表明したことを受け、「ならば、国民が求める消費税減税を行うことが民意に応える道だ」と求めた。
しかし高市首相は「消費税は税収が景気や人口構成の変化に左右されにくく安定している」などと述べ、消費税減税を拒否。物価高に無策のまま、国民の苦しみに向き合わなかった。
田村氏はさらに、この30年間で消費税が3度増税され、法人税率が7回も下げられ、富裕層への減税と税優遇が続いている現実を指摘。「空前の利益を上げる大企業や大資産家には減税、食費さえ切り詰める庶民には消費税の重い負担。この税制のあり方をどう思うか」と追及したが、高市首相は「税制については不断に見直しを進めていく」というだけで、まともに答えなかった。
人権問題への後ろ向きな姿勢
人権分野では、排外主義の危険性と選択的夫婦別姓の必要性を強く訴えた。
犯罪や治安の悪化を外国人と結びつける論調が強まる中で、田村氏は「こうした主張を政党や政治家が喧伝することで、外国人への恐怖心や憎悪があおられ、外国人やコミュニティーに危害がもたらされることはあってはならない」と迫った。
しかし高市首相は「外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、政府として毅然と対応する」と述べるだけで、排外主義の危険性について全く言及しなかった。
選択的夫婦別姓については、高市首相が通称使用の法制化を主張していることを批判。田村氏は「通称使用を徹底しても、自分の名前を変えて結婚することが強制される。名前はアイデンティティー、人権だ」と指摘し、「名前は人格だ。自分の名前のままで生活するには二つの人格を持てということか」と厳しく追及した。
しかし高市首相は通称使用の拡大について述べるだけで、選択的夫婦別姓に背を向ける姿勢を明確にした。
国民の審判に向き合わない政権
この代表質問を通じて明らかになったのは、高市政権が衆参両院での与党過半数割れという国民の厳しい審判に全く向き合っていない現実だ。
裏金問題では無反省な態度に終始し、物価高対策では具体策を示さず、対米従属外交を続け、人権問題では後ろ向きな姿勢を貫いた。田村氏が指摘した「国民不在、対米従属、人権を語れない最悪の政権」という評価は、この代表質問の内容を見れば説得力を持つ。
減税による国民生活支援、企業・団体献金の廃止、対米従属からの脱却など、真に国民のための政治への転換が急務であることが浮き彫りになった代表質問だった。