2025-11-24 コメント投稿する ▼
沖縄のこころ、東京で ― デニー知事らが示した「記憶継承」の姿
会場では平和劇、対話、音楽を通じて沖縄戦の記憶と平和の意味を来場者に問いかけました。 さらに、戦没学徒の遺品を所蔵する資料室の解説員である大田光 さんは、戦前の社会には学徒動員に疑問を抱いても声を上げられなかった側面があったのではないかと指摘し、「今の私たちの世代には、健全な言論空間と記憶を守る義務がある」と語りました。
沖縄のこころを次代に
東京都で「沖縄戦の記憶」継承の催し デニー知事ら登壇
「沖縄のこころ」東京都内シンポジウム 戦争の記憶 継承を問う
沖縄県は2025年11月24日、東京都千代田区のホールで、戦後80年を迎える節目を前に、沖縄の歴史と平和への想いを次世代へつなぐ催し「沖縄のこころ 平和啓発シンポジウム」を開催しました。県が2019年度から続けてきた平和継承事業の一環です。会場では平和劇、対話、音楽を通じて沖縄戦の記憶と平和の意味を来場者に問いかけました。
平和劇で伝える沖縄戦の実相
この催しの中心となったのは、かつて沖縄本島南部の“ガマ”(自然壕)で起きた出来事を、当時11歳だった人の証言をもとに創作した平和劇です。脚本・演出は劇作家の永田健作さんが務め、若い世代の俳優たちが演じました。過去に聞き取られた14人の体験者は「悲劇は二度と繰り返さない」「戦争は自分たちの代で終わらせたい」と強く願っていたと永田さんは語っています。劇は、言葉だけでは伝わりにくい当時の恐怖と絶望を観客に体感させるものでした。
このような演劇的アプローチは、戦争体験を知らない若い世代にもその痛みと重みを伝える手段として注目されており、今回、新たな継承の形として実施された意義は大きいと言えます。
対話と証言で「平和の島」の今を問い直す
パネルディスカッションでは、玉城デニー 知事が登壇し、沖縄戦で多くの県民が尊い命を奪われた事実に言及。知事は「沖縄は今も“平和の島”ではない」「この想いを世界に発信しなければならない」と強調しました。
また、映像作品として沖縄戦を描いた映画『木の上の軍隊』の監督である平一紘 さんは、伊江島での撮影準備中に戦没者とみられる遺骨20体を発見した経験に触れ、「単に知るだけでは意味がない。行動して、平和を守らなければ」と訴えました。さらに、戦没学徒の遺品を所蔵する資料室の解説員である大田光 さんは、戦前の社会には学徒動員に疑問を抱いても声を上げられなかった側面があったのではないかと指摘し、「今の私たちの世代には、健全な言論空間と記憶を守る義務がある」と語りました。
これらの意見は、過去の悲劇を単に語り継ぐだけでなく、現在の社会と向き合い、未来への責任を問うものです。特に、言葉や記録だけでなく「行動」「表現」「対話」による継承を重視する姿勢は、今後の平和維持に向けた重要な示唆を含んでいます。
音楽でつなぐ平和の願い ― MONGOL800 キヨサクの歌声
催しの締めくくりとして、沖縄出身ロックバンド MONGOL800 のボーカル キヨサク さんがステージに立ちました。彼は、ひめゆり学徒隊ゆかりの曲「別れの曲(うた)」などを歌い、会場全体に平和への想いを響かせました。キヨサクさんは、2025年6月に立ち上げた「詩い継ぐ沖縄慰霊の日プロジェクト」を通じて、この歌を若い世代にも広げたいと語っています。
「別れの曲」は、もともと1944年に沖縄戦前夜の学徒たちの卒業式のために作られた曲でした。戦争により歌われることはなかったものの、戦後に同窓生たちの記憶によって復元され、慰霊祭で歌い継がれてきました。今回、キヨサクさんが新たにこの歌に命を吹き込み、次世代に歌い継ぐことを呼びかけた意義は大きいと評価されています。
音楽という普遍的な言語を通じて、言葉や映像だけでは伝えきれない「心の叫び」を若い世代に届ける。それは、過去と未来をつなぐ新たな方法として、今後も注目を集めるでしょう。
記憶の継承と社会の責任
今回のシンポジウムは、過去の戦争がもたらした悲劇を忘れず、次世代に伝える意味で重要な試みでした。特に、演劇、対話、音楽という多様な表現手段を用いて「記憶の継承」を図った点に新しさがあります。
しかし一方で、こうした取り組みを継続することの難しさも浮かび上がります。戦争体験者の高齢化が進み、直接の証言を聞ける機会は徐々に減っていきます。だからこそ、演劇や音楽といった“感じる手段”を使って、若い世代に「体験の重み」を伝える必要があります。
また、資料館の解説員が指摘したように、かつては声を上げることが難しかった時代がありました。現代社会でも、過去の出来事を語ることに対して、無関心や圧力、あるいは忘却があってはなりません。私たち一人ひとりが、歴史に真摯に向き合い、対話と表現を通じて記憶を守る責任があります。
東京都内での今回の催しが、沖縄だけでなく全国に「記憶と平和」をどう未来につなぐかを問い直すきっかけになったことは間違いありません。これからも、語り継ぎ、聞き継ぎ、そして行動する社会を形づくるために、多くの人々が思いを新たにする――その一歩が、今、ここから始まっています。