2025-09-28 コメント投稿する ▼
高市早苗氏「奈良のシカ蹴る」発言と観光現場の証言が突き付ける課題
奈良公園で外国人観光客がシカを蹴る、叩くといった行為を目撃したという主張が批判を受ける中、根拠の提示が問われている。 高市氏は「日本人も外国人も同じだ」と述べ、観光客に対して動植物への理解を求めたが、野党や動物保護団体からは「根拠なき排外主義だ」との反論も出ている。
高市早苗氏の「鹿発言」が波紋を呼ぶ
自由民主党(自民党)総裁選に立候補中の高市早苗氏=前経済安全保障担当相=は2025年9月28日、奈良公園のシカをめぐる発言について改めて説明した。奈良公園で外国人観光客がシカを蹴る、叩くといった行為を目撃したという主張が批判を受ける中、根拠の提示が問われている。高市氏は「日本人も外国人も同じだ」と述べ、観光客に対して動植物への理解を求めたが、野党や動物保護団体からは「根拠なき排外主義だ」との反論も出ている。
高市氏は演説で「奈良のシカを足で蹴り上げる、とんでもない人がいる。殴って怖がらせる人がいる」と発言した。発言後、記者会見などで根拠を問われた際には「自分なりに確認した」「流布されている事象」などと説明した一方、県の担当者は「暴行の事例は把握していない」と反論している。このような発言は観光客や外国人に対する印象操作と受け取られかねず、政治的影響を伴う波紋を広げている。
「観光地でシカを蹴るなんて本当にあるのか?」
「SNSで見た動画は一部を切り取ったものでは」
「外国人だけの問題にするのは危険」
「地元の人も乱暴していると聞いた」
「観光マナーの啓発が先ではないか」
奈良公園とシカ保護制度の変遷
奈良公園のシカは神仏習合の伝統的信仰と結びつく存在であり、古くから「神の使い」として尊重されてきた。昭和32年には国の天然記念物に指定され、損傷を加えれば文化財保護法違反となる可能性がある。近年、観光客の増加に伴い、シカに対する不用意な接触や写真撮影などを巡るトラブルも増えてきた。シカに与えてよい餌は「鹿せんべい」のみとされており、それ以外の給餌・接触はリスクを孕む。
2025年4月には、奈良県が奈良公園を対象とする都市公園条例施行規則を改正し、シカへの加害行為(蹴る・叩くなど)を禁止行為に明記した。禁止の対象は「外傷を生ずるおそれのある暴行等」などである。違反時は退去命令などの措置を講じることが可能とされたが、条例自体には罰則規定は付されていない。これに加え、文化財保護法は天然記念物を毀損すれば刑事罰が科され得る規定を持つ。
観光現場の証言が示す実態
現場の声は、机上の議論以上に重い意味を持つ。奈良公園近くの老舗旅館の関係者は「中国語を話す観光客がシカを突いたり、頭を叩いたり、蹴ったりする行為は日常的にある」と強調した。これは一過性の事件ではなく、観光地の現場で繰り返し目撃されている行動だという。
この証言は、単なる噂話ではなく地元事業者の実感に基づくものである。旅館関係者はさらに「日本人でもシカを怒る人はいるが、叩いたり蹴ったりまではいかない」と述べ、国籍にかかわらずマナー意識の差が問題だと指摘した。つまり、外国人観光客による行為が目立つ一方で、日本人側の不適切行為が皆無ではないことも示している。
実際、昨年夏には男性がシカを蹴る動画がSNSで拡散し、県警が「DJポリス」を出動させて多言語で啓発活動を行った経緯がある。こうした取り組みは、現場での行動が深刻な課題となっていることを裏付けている。
政治的意図とリスク
高市氏は奈良を地盤に持つ政治家でもある。奈良公園のシカ問題を論点に据えることで、地元感情や観光産業関係者の共感を呼び込む狙いがあるとされる。永田恒県議は「県民の不安に応える現実的な問題提起だ」と賛意を示す。
しかし根拠が曖昧なまま「外国人が暴行」という印象を広げることは、観光客への警戒感を誘発しかねない。排外主義的な空気を助長するとの批判を避けるのは難しい。制度整備の観点では、禁止行為を条例に明記したものの罰則がない点が弱点とされる。実効性を持たせるにはパトロール強化や監視体制の拡充が不可欠である。今回の騒動は、政治家発言の責任と観光・文化財保護のバランスを問う事例となった。