2025-08-26 コメント投稿する ▼
吉村知事の「外国人限定徴収金」が頓挫 公平性と実務の壁、宿泊税活用へ
吉村知事の「外国人限定徴収金」制度が頓挫
大阪府の吉村洋文知事が打ち出した、訪日外国人客(インバウンド)に限定した徴収金制度の導入が頓挫した。観光公害(オーバーツーリズム)対策の財源確保を狙った取り組みで、実現すれば国内初の事例となるはずだったが、有識者会議は「公平性に欠ける」として難色を示した。実務面でも多くの課題が浮上し、制度設計は行き詰まった。
吉村知事が導入を訴えたのは昨年3月の府議会。万博を控えた大阪でインバウンド急増を見据え、徴収金を活用して混雑や生活環境の悪化に対応する考えだった。実際、2023年に大阪を訪れた訪日客は過去最多の1464万人で、今年も半年で847万人を超え、勢いを増している。だが、有識者会議は「国籍による差別的な扱いは許されない」として、制度化を断念する方向を固めた。
公平性と実務面の壁
府の調査では、海外にも外国人観光客から環境保護目的で徴収する例が存在する。しかし多くの国や都市では、国籍に関係なく「宿泊税」や「入域料」といった形で徴収している。委員会は「国内客も観光公害の一因であり、外国人限定にする合理的な根拠を示すのは困難」と結論づけた。
さらに実務上の課題も大きい。空港や港では徴収可能でも、鉄道で訪れる外国人客から徴収する仕組みは難しく、宿泊施設に委ねる方法も「事務負担が過大」との反発を招いた。最終的に、有識者会議は寄付金制度や宿泊税の活用を提案したが、安定的な財源には限界がある。
事業者・市民の懸念
観光事業者からも慎重な声が相次いだ。大阪市内の宿泊施設従業員は「9月から宿泊税が上がるのに、さらに新たな負担を外国人客や事業者に求めるのは筋違いだ」と批判する。観光による経済効果が大きい一方で、財源の使途が不透明なままでは、国民も事業者も納得できない。
ネット上でも多様な意見が飛び交った。
「外国人限定の税は差別と取られても仕方ない」
「観光公害対策は必要だが国内旅行者も負担すべき」
「宿泊税をもっと有効活用すれば良い」
「公約を掲げて頓挫するのは無責任だ」
「国民生活が苦しいのに観光優遇ばかり目立つ」
公平性と負担のあり方をめぐり、議論は市民感情にも直結している。
消費税免税と観光財源の議論
徴収金に代わる財源として注目されるのが、インバウンド向けの消費税免税措置だ。吉村知事は「負担能力のある海外のお客さんに消費税を負担してもらうのが筋」として、免税廃止を主張してきた。国税庁の統計によれば2023年の免税購入額は約1兆5855億円で、もし免税が廃止されれば約1,500億円以上の税収増が見込める。
だが免税は「持ち出し商品は輸出」とみなす国際ルールに基づいており、単純に廃止すれば小売業界への打撃も大きい。訪日客の購買意欲を削ぎ、観光立国としての戦略に逆行する可能性があるため、国政レベルでの議論は深まっていない。
観光政策の転換点と住民生活
観光は地域経済の起爆剤であると同時に、住民生活に負荷を与える側面も持つ。国学院大の小林裕和教授は「徴収金の狙いは合理的だが、住民と旅行者の共存を目指す『リジェネラティブ・ツーリズム』の発想が必要」と指摘する。観光を収益源とするだけでなく、文化財保護や地域資源の活用を通じて住民生活を向上させることが求められている。
観光政策はもはや「誘致一辺倒」では成り立たない。公平性を保ちつつ、住民の負担感を和らげる仕組みを整えることが不可欠だ。石破政権にとっても、観光と生活の両立は重要な課題であり、説明責任を果たさなければ「ポピュリズム外交」と同様に批判を受けかねない。
外国人限定徴収金頓挫と今後の観光政策の行方
大阪府が試みた外国人限定の徴収金制度は、法的公平性や実務上の困難から頓挫した。観光客の急増による混雑や環境破壊を防ぐには、宿泊税の活用や免税措置の見直しなど、より現実的かつ持続可能な方法を模索する必要がある。国民はまず減税を望んでおり、海外や観光客への優遇ではなく、国内生活の安定に直結する政策を優先すべきだ。
観光を通じた地域再生を実現するには、旅行者と住民の双方に利益をもたらす仕組みを確立し、国民生活に資する観光政策へ転換していくことが求められている。