2025-11-20 コメント投稿する ▼
奈良県医師会長が維新OTC類似薬保険適用見直し案を痛烈批判「コストありきの政策で健康格差拡大」国民皆保険制度の理念が問題に
日本維新の会が提言するOTC類似薬の保険適用見直しに対して、奈良県医師会の安東範明会長が2025年11月20日の定例記者会見で「コストありきの政策」と強く批判しました。 これにより、国民皆保険制度の理念と医療費削減の必要性を巡る対立が鮮明になっています。
維新提言に医師会が猛反発
日本維新の会は現役世代の社会保険料引き下げを目的に、市販薬と効能が似た「OTC類似薬」の保険適用除外を提言しています。この見直し案は2025年6月に自民党・公明党・日本維新の会の3党協議で合意され、骨太方針2025に反映されています。計画では2025年末までに十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて2026年度から実施する方向性が示されています。
維新は年間で国民医療費を最低4兆円削減し、現役世代1人あたりの社会保険料を年間6万円引き下げるべきと主張しています。具体的には28有効成分を挙げ、保険適用除外により1370億円の薬剤費削減が可能だと試算しています。この中には皮膚保湿剤のヘパリン類似物質や制酸剤の酸化マグネシウム、アレルギー性疾患治療剤のフェキソフェナジンなど日常診療で広く使われる医薬品が含まれています。
「コストありきの政策」と痛烈批判
こうした状況を受けて、安東範明奈良県医師会会長氏は2025年11月20日の定例記者会見で強い懸念を表明しました。安東氏氏は「医療費削減の短期的な目標に傾注した場合、健康格差の拡大や長期的な医療費の増大を招きかねない」と指摘し、「コストありきの政策」と厳しく批判しました。
安東氏氏は具体的な問題点として複数の懸念を挙げました。まず薬代が全額自己負担になることで患者が費用を恐れて受診をためらい、重篤な病気の見逃しや病気の重症化、合併症の発生につながるリスクを指摘しました。また経済的に困窮している人ほど治療を我慢する傾向が強まり、健康格差が拡大する恐れがあるとしました。さらに乳幼児医療費助成の対象だった診療が実費負担となることで、子育て支援策との整合性が崩れると警鐘を鳴らしました。
患者負担の劇的増加が判明
厚生労働省が2025年11月6日の社会保障審議会医療保険部会で示した試算では、OTC類似薬の保険適用除外により患者負担が大幅に増加することが明らかになりました。具体的には花粉症薬が20倍、解熱鎮痛薬が20倍、湿布薬が36倍に負担が増える可能性があります。
全国保険医団体連合会が実施したアンケート調査では、1万2301人が回答し、94.9%がOTC類似薬の保険外しに反対と答えました。また83.6%が「薬代が高くなる」、61%が「薬が必要量用意できず症状が悪化する」と回答し、多くの患者が不安を抱いていることが浮き彫りになっています。
「薬代が20倍になるなんて払えません」
「子どもの風邪薬まで高くなるのは困る」
「病院に行くのをためらうようになります」
「お金のために我慢する人が増える」
「結局重症化して医療費が増える」
地域医療格差拡大への新たな懸念
会見では、財務省が主張する診療報酬の地域別単価導入案についても議論されました。安東氏氏は診療報酬に地域差を設けることについて、政府が「地域によって医療の価値が異なる」と宣言することに等しいとして強く反対しました。「全国どこでも同じ疾患に対し、同じ質の医療を受けられるという国民皆保険制度の本質を崩壊させる」と述べ、制度の理念を守る重要性を訴えました。
財務省は診療所過剰地域では1点当たり単価を引き下げ、不足地域では引き上げることで医師偏在を是正しようと提案しています。しかし日本医師会は「人口分布の偏りに起因するものを、あたかも医療で調整させるような極めて筋の悪い提案」と反論しており、医療界全体で強い反発が続いています。
国民皆保険制度の理念を問う議論
安東氏氏は医療費適正化の必要性は認めつつも、予防医療や早期診断に重点的に配分して将来の重篤化を防ぐといった「医療費を投資と捉える賢い政策転換が不可欠」と強調しました。その上で「国民皆保険制度は戦後日本が築き上げた社会的な資産であり、経済効率だけで考えてはならない」と訴え、制度の根幹に関わる重要な価値観を提示しました。
今回の論争は単なる医療費削減の議論を超えて、日本の医療制度の将来像と国民皆保険制度の理念をどう守るかという根本的な問題を提起しています。政府は2025年末までの予算編成過程で最終的な方針を決定する予定ですが、医療関係者と政治側の対立は今後さらに激しくなることが予想されます。