2025-11-23 コメント投稿する ▼
上地与那国町長、小泉防衛相に「住民説明なし」で防衛強化計画を牽制
台湾から110キロしか離れていない与那国島では、高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁で中国が圧力を強める中、防衛力強化に慎重な姿勢を示す上地町長との調整が重要な課題となっています。 上地町長は選挙公約で「自衛隊だけの島にしたくない」と明言しており、防衛省が進める部隊増強計画に対して慎重な検討を求める姿勢を示しています。
防衛強化に慎重な上地町長が就任
上地常夫氏は2024年8月24日の与那国町長選で初当選した61歳の元町議です。選挙戦では「町におけるこれ以上の防衛強化は必要ない」と訴え、自衛隊の機能強化に積極的だった現職の糸数健一氏を51票差の僅差で破りました。得票数は上地氏557票、糸数氏506票、田里千代基氏262票でした。
上地氏は選挙戦で「糸数町長は『自衛隊ファースト』で町民に目を向けていない」と現町政を厳しく批判し、「町民ファーストと役場機能の再建」を前面に打ち出しました。自衛隊配備には理解を示すものの、さらなる防衛力強化には慎重な姿勢を取ることを明確にしていました。
注目すべきは、上地氏が陸上自衛隊与那国駐屯地の自衛官やその家族ら「自衛隊票」約300〜340票の取り込みにも成功したことです。これは隊員の中にも機能強化に慎重論があることを示しており、防衛省にとって予想外の展開となりました。
「自衛隊だけの島にしたくない。住民の生活が最優先だ」
「これ以上の軍拡は望まない。平和な島で暮らしたい」
「自衛隊は理解するが、ミサイルまでは必要ないのではないか」
「町長選では町民ファーストを選んだ。防衛省は住民の声を聞くべきだ」
「戦争に巻き込まれるリスクが高まるのは不安だ」
レーダー妨害部隊配備計画への対応
小泉氏は駐屯地内での会談で上地町長に対し、2026年度に予定されている対空電子戦部隊の配備について説明を行いました。この部隊は敵の航空機のレーダーを妨害する任務を担い、全国初の配備となります。「戦後最も厳しい安全保障環境に直面し、自衛隊の防衛力強化は重要だ。地元の協力が不可欠で丁寧に進めたい」と理解を求めました。
しかし、上地町長は防衛省から事前の詳細な説明を受けていないことを明らかにし、「防衛省から説明は受けていない。情報を聞いて精査する」と述べました。この発言は、防衛省が地元との合意形成を十分に行わないまま計画を進めていることを浮き彫りにしました。
上地町長は選挙公約で「自衛隊だけの島にしたくない」と明言しており、防衛省が進める部隊増強計画に対して慎重な検討を求める姿勢を示しています。防衛省は今後、住民説明会の開催を検討していますが、上地町長の同意なしには計画の円滑な実施は困難とみられます。
住民の生活を重視する町政運営
上地町長は就任後、「町民ファースト」の姿勢を一貫して示しています。診療所の県立化を段階的に進める方針を表明し、住民の医療環境改善を最優先課題としています。与那国島では医師不在の危機に直面しており、台湾有事への懸念などで派遣元が撤退方針を示す中、医療体制の確保が急務となっています。
また、上地町長は環境保護の観点から、島南部の樽舞湿原を埋め立てて新港を建設する「比川新港」計画にも慎重な姿勢を示しています。この計画は前町長の糸数氏が推進していましたが、環境省から重要湿地に選定されている貴重な自然を破壊する恐れがあるとして、見直しを検討しています。
上地町長は「島の将来を考えるとき、自衛隊だけに頼る発展ではなく、観光や農業、漁業といった多様な産業で活性化を図りたい」との考えを示しており、防衛に偏重しない均衡の取れた地域振興を目指しています。
防衛省との今後の調整が焦点
与那国島では2016年の駐屯地開設以来、隊員と家族の転入により人口が約9年ぶりに1700人台を回復し、住民税収入の増加や給食無償化などの効果が見られています。しかし、選挙における影響力の拡大や、住民自治への影響を懸念する声も根強くあります。
高市政権が「南西シフト」を重視する中、上地町長の慎重な姿勢は政府の防衛政策にも影響を与える可能性があります。小泉氏の視察は、中国の圧力に対する防衛意志を示すとともに、地元との合意形成の重要性を確認する機会となりました。
上地町長は「国の政策は理解するが、住民の声を最優先に判断したい」との姿勢を示しており、防衛省は今後、より丁寧な説明と住民との対話を通じて理解を求める必要があります。台湾有事への備えと住民生活の両立が、与那国島における防衛力強化の最大の課題となっています。