2025-09-04 コメント投稿する ▼
沖縄戦資料を陸自が全面改定 肯定表現削除も責任回避の限界残す
沖縄戦記述をめぐる陸自資料の全面改定
陸上自衛隊幹部候補生学校(福岡県久留米市)が作成していた学習資料に、沖縄戦における旧日本軍第32軍の作戦を肯定的に記述していた問題で、同校が2025年度版から全面的な改定を行ったことが明らかになった。2024年度版では「本土決戦準備のために偉大な貢献をなした」と第32軍の持久作戦を評価していたが、改定後はこの表現を削除した。
この問題は、日本共産党の赤嶺政賢議員が2024年6月12日の衆院安全保障委員会で追及したことが契機となった。質疑の中で中谷元防衛相は「見直しを進める」と答弁し、今回の修正につながった。
改定の内容と新たに盛り込まれた住民犠牲
改定後の資料では、1945年1月に大本営が決定した「帝国陸海軍作戦計画大綱」を引用し、沖縄を「皇土防衛のための前縁」と位置づけた上で、「極力敵の出血損耗を図る」としていたことに触れている。一方、旧版にはなかった住民犠牲の記述が新たに盛り込まれた。防衛研究所戦史センター作成の資料を添付し、壕からの立ち退き命令、赤児の殺害強制、食糧の略奪、スパイと誤解した住民の射殺などの事例を明記した。
ただし、これらの行為は「一部の不心得者」によるものと説明され、作戦全体を指揮した大本営や第32軍幹部の責任には触れていない。戦争指導部の判断や戦略的背景を問わず、現場の逸脱に矮小化している点は議論を呼びそうだ。
国会での追及と防衛省の対応
赤嶺議員は委員会で、旧日本軍の作戦を肯定的に扱う資料の問題を指摘し、「住民犠牲の実態に目を向けるべきだ」と求めた。中谷防衛相は当時、「不適切な表現がある」と認めたものの、沖縄戦が本土決戦を遅らせるための「捨て石作戦」だったとの認識は示さなかった。結果として資料改定では犠牲の事実を部分的に取り込む一方、軍指導部の責任に踏み込まないという折衷的な対応にとどまったといえる。
沖縄戦をめぐる歴史認識は、戦後日本の平和主義の根幹に関わる問題であり、自衛隊教育における記述の仕方は国民的な注目を集めるテーマである。今回の改定は一歩前進と評価する声もあるが、責任の所在を曖昧にしたままでは「歴史の歪曲」との批判も免れない。
沖縄戦認識をめぐる課題と社会的反響
沖縄戦では県民の4人に1人が命を落としたとされ、住民を巻き込んだ悲惨な戦闘の記憶は地域社会に深く根付いている。陸自の資料改定は、そうした史実の一端を反映した点で意義はあるが、根本的に問われるべきは戦略判断を下した軍中枢の責任である。
ネット上では以下のような声が広がっている。
「事実を明記したのは一歩前進だが、責任に触れないのは不十分だ」
「住民犠牲を“逸脱”として片づけるのは歴史への冒涜だ」
「若い自衛官に正しい歴史を学ばせることこそ大事だ」
「改定したと言っても、結局は軍を庇う書き方に見える」
「沖縄の人々の声を反映した教育が必要ではないか」
歴史教育のあり方は、防衛力強化を進める現代日本においてますます重みを増している。安全保障政策と並行して、過去の戦争への認識をどう位置づけるかが国民の信頼に直結するためである。
沖縄戦資料改定が突きつける自衛隊教育の課題
今回の改定は、問題視された「作戦肯定」の表現を削除し、住民犠牲を明記する方向に転じた点で前進といえる。しかし、軍中枢の責任を避けていることは、教育内容が半歩止まりであることを示している。歴史の教訓を将来の防衛教育にどう生かすか、また住民犠牲の記憶をどう継承するかが今後の焦点だ。
石破茂政権下で安全保障環境の議論が加速するなか、歴史認識をめぐる自衛隊教育の課題は、単なる過去の問題ではなく、国民的合意を形成する上で不可避のテーマとなっている。