2025-10-16 コメント投稿する ▼
倶知安町で外国人労働者向け住宅街開発、農地転用が許可へ決定
転用をめぐっては、町の農業委員会や地元住民との対立が続いており、地域社会に緊張を残す動きだ。 第一に、農地転用の是非である。 第二に、地元自治と合意形成である。 農業委員会の反対から賛成への見解変更は、開発優先を示す判断と受け取られかねず、住民との信頼関係を揺るがす行為となる可能性がある。 第三に、外国人労働者と地域社会統合である。
倶知安町で外国人労働者向け住宅街開発、農地転用が許可へ
後志地方、北海道倶知安町の農地(およそ2.7ヘクタール)で、冬季の外国人労働者ら最大1200人が暮らす住宅街を開発する計画があり、道(北海道)がこの農地を宅地転用する許可を16日付けで認める見通しであることが明らかになった。転用をめぐっては、町の農業委員会や地元住民との対立が続いており、地域社会に緊張を残す動きだ。
計画の概要と開発の流れ
この開発計画は、倶知安町南6東2地区の農地で実施され、季節従業員らが住む共同住宅を中心とした居住区を整備する構想である。冬場を中心に働き手を確保するリゾート地である地域特性を踏まえ、住環境整備を図る狙いがある。事業者は転用許可を得次第、近隣町内会との地域協定を進めながら造成を始める方針という。
道が転用を許可する判断を示した理由として、申請地が「第3種農地」であり、かつ周辺農地への影響が限定的であるなど転用基準を満たす点が挙げられている。
農業委員会の反対と意見書変更
この計画は、転用をめぐって町の農業委員会の対応が二転三転した。7月末、町農業委員会は意見書で「地域調和を考えると転用には賛同できない」と北海道庁に反対意見を提出することを全会一致で議決した。このように農業委員会が転用反対を表明することは非常に異例の対応とされていた。
しかしその後、北海道農業会議で「許可相当」との判断が示され、委員会も「やむを得ない」との見解へ意見を変えた。道はこの新たな意見書を踏まえ、16日付で転用を認める方向を決めた。
地元の反発と署名活動
この開発への地元住民らの反発は根強い。治安悪化、インフラ負荷、地域コミュニティの崩壊といった懸念を抱く住民によって、オンラインで4,315人分もの反対署名が道に提出された。また、住民グループ「倶知安・ニセコ近辺の開発計画を考える会」は、7月に245人分の署名および要望書を町と農業委員会に提出している。
住民らの声には、近隣に小学校がある点を挙げて、安全性を懸念する意見や、開発が急激に地域風景を変えるのではないかという警戒感が含まれている。
論点とリスク:農地政策・地域共同体・国家主権
この件で論じられるべき論点は複数ある。
第一に、農地転用の是非である。農地は食料生産基盤であり、国家の食料安全保障との関係性も無視できない。転用を認めれば、将来的に農地の減少が加速するリスクがある。転用許可基準をクリアしているとはいえ、許可を拡大することが農政の抑制機能を弱める恐れもある。
第二に、地元自治と合意形成である。農業委員会の反対から賛成への見解変更は、開発優先を示す判断と受け取られかねず、住民との信頼関係を揺るがす行為となる可能性がある。公開性・透明性を確保し、住民説明会や異論の吸収プロセスが不可欠だ。
第三に、外国人労働者と地域社会統合である。住宅街を特定グループ向けに設けることは、地域内分断や社会的排他感情を生む懸念もある。治安や文化・言語の摩擦も含めて、対話と配慮が前提とされねばならない。
そして第四に、国家主権・土地政策の観点である。外国人関連の開発が拡大することで、土地の所有・利用権をめぐる議論が全国的に波及する可能性がある。開発が適法であっても、地域の未来を担う政策判断として慎重さが求められる。
展望と今後の課題
転用許可が確定すれば、事業者は造成と建設を速やかに進めようとするだろう。ただし以下の課題が残る。
・許可後にも、環境影響評価や上下水道、交通、治安対策、地域協定の整備などの実務調整が膨大である。
・住民反対の声は消えず、訴訟や行政訴訟等の法的争いとなるリスクもある。
・開発後、実際に居住者がどのように管理・運営されるか。管理能力の不備は住環境破壊を招く。
・このケースが成功事例と認知されれば、同種の開発申請が他地域にも波及する可能性がある。
倶知安町は観光リゾート地としても著名である。開発と環境保全、地域共同体の維持のバランスをどう取るか。今回の判断は、今後の地方開発と農地政策にひとつの試金石になる。