2025-04-18 コメント投稿する ▼
「サイバー防衛」が先制攻撃に?通信監視の是非巡り国会で激論―井上議員が懸念表明
「能動的サイバー防御法案」参院で審議入り 井上議員「先制攻撃の危険性」訴え
政府が今国会に提出した「能動的サイバー防御法案」が、4月18日に参議院本会議で審議入りした。サイバー攻撃を未然に防ぐことを目的に、平時から政府が通信情報を収集し、必要に応じて国外サーバーに侵入して機能を停止する仕組みを導入しようとするものだ。
だが、この法案には懸念の声も多い。特に野党側からは、「国民のプライバシーや通信の秘密を脅かす」「相手国に対する先制攻撃と受け取られかねない」など、慎重論が噴出している。
井上哲士氏「知らぬ間に通信監視、先制攻撃と誤解されかねない」
この日の本会議で日本共産党の井上哲士議員は、法案が通信の秘密を大きく損なう危険があるとして、廃案を強く求めた。
井上氏が特に問題視したのは、政府が基幹インフラや民間企業と協定を結べば、送受信者の同意なく通信情報を取得できる点。さらに、その協定内容は利用者に明かされることなく、知らない間に情報が収集されてしまう可能性があると指摘した。
また、政府は「収集するのは機械的な情報に限る」としているが、その中には「攻撃に使われると疑われる操作履歴」も含まれており、恣意的な判断が入り込む余地があるのではないかと追及した。
海外サーバーへの介入が「主権侵害」に?
法案では、サイバー攻撃を受ける前に国外のサーバーにアクセスし、プログラムの停止や削除を行う「無害化措置」を警察や自衛隊が担うとされている。
これについて井上氏は、「他国の主権を侵す行為ではないか」と強調。政府は国際法の「緊急避難」などの理屈で合法と主張しているが、そうした解釈は国際的な合意に至っていないのが現状だ。
アメリカとの一体化が背景に?
さらに井上氏は、元米太平洋軍司令官で国家情報長官も務めたデニス・ブレア氏が、「能動的サイバー防御によって日米の統合運用が進む」と語ったことにも言及。自衛隊と米軍の共同作戦を想定したアメリカ側の要望が、日本の法整備を後押ししているのではないかと疑念を投げかけた。
「サイバー戦争」に巻き込まれる恐れも
井上氏は、2019年に日米政府が「サイバー攻撃も安保条約の対象となりうる」と合意した経緯にも触れた。当時、防衛相だった岩屋毅氏は「深刻な被害を伴えば武力攻撃と見なされることもあり得る」と国会で答弁している。
そうなれば、日本が行った無害化措置が相手国にとって「攻撃」と映り、物理的な反撃を誘発する可能性もある。仮に在日米軍への攻撃に日本が先回りして措置を講じた場合、それが「先制攻撃」と見なされる懸念もある。
井上氏は「この法案は戦争につながる可能性すらはらんでおり、危険きわまりない」として、審議入り直後から強い口調で廃案を求めた。
政府の立場は「問題ない」
これに対し石破茂首相は、「物理的な被害は想定しておらず、武力攻撃や先制攻撃には当たらない」と説明。あくまで国際法に基づいた合法的な対応とし、必要なサイバー防衛だと強調した。
ただ、法案には修正も加えられており、「国民の自由や権利を不当に制限しない」との文言も盛り込まれている。今後の審議では、独立した監視機関の設置や、運用の透明性をどこまで担保できるかが焦点となる。
この法案の行方は、日本の安全保障政策の転換点になるかもしれない。サイバー空間をめぐる新たな攻防の時代に、私たちはどこまでの「防御」を許容すべきなのか――国会での真剣な議論が求められている。