2025-07-11 コメント投稿する ▼
非正規労働のリアルと国会の責任──『愛と連帯』に込めた大椿ゆうこの覚悟
「ガタガタ言うのが仕事」──怒りと共感の政治家、大椿ゆうこ
「ガタガタ言うのが私の仕事」——これは大椿ゆうこ副党首が街頭演説で、右翼団体からの妨害に対して発した言葉だ。この一言に象徴されるのは、彼女の原点である「非正規労働者としての痛み」と、それを社会に伝える責務だ。
初の著書『愛と連帯──非正規労働、国会へ』には、その原点と覚悟、そして差別や抑圧に対する怒りが詰まっている。元々フリーターとして働き、大学の非常勤職員として非正規雇用を経験し、雇い止めを経て労働争議に立ち上がった。そこから労働組合、政党活動へと足を踏み出し、そして国会議員へ。「ミラクル」と呼ばれた参院議員繰り上げ当選の背後には、闘いの歴史があった。
そんな彼女が著書の中で繰り返し訴えているのは、「働く人間の尊厳」だ。「クビを切られた元非正規労働者」というキャッチフレーズは、痛みを経験した者だけが持ち得るリアルを象徴している。
差別と使い捨てに「ノー」 命をかけた現場の声を国会に
大椿氏が語る「愛と連帯」は単なるスローガンではない。人間らしい労働と暮らしを取り戻すための「怒り」から生まれた実践的な思想だ。差別やヘイトに沈黙せず、生活の現場で声を上げる。それは命の現場である。
著書には、1942年に山口県の長生炭鉱で起きた落盤事故に触れる章もある。183人が犠牲となった事故では、朝鮮半島出身者が136人含まれていた。戦時下の国策に従って連れてこられ、命を落とした人々。彼女は遺骨の収容と政府の対応を求めて奔走し続けている。「長生炭鉱の問題にこだわるのは、これが労働問題だから」と明言し、歴史と向き合う姿勢を貫いている。
「政治家って、こういう人こそ必要なんじゃないか」
「差別やヘイトに真っ向から立ち向かってくれる数少ない人」
「“非正規は当たり前”って意識を変えてくれる人が出てきた」
「読んで泣いた。自分の人生と重なってしまった」
「希望って、こうやって作るものなんだと思えた」
これらの声が示すのは、大椿氏が語る言葉の力強さと、何よりも「当事者性」だ。経験からにじみ出る説得力こそ、今の政治に欠けているものだ。
「希望を組織化する」政治へ
本書では、故・土井たか子元衆院議長の言葉「希望を組織する政治家でありたい」というフレーズが引用されている。大椿氏が目指すのは、理想を語るだけの政治ではなく、現実を動かす実践的な政治だ。
その具体的な施策として打ち出されているのが、「非正規雇用の入り口規制」だ。雇用は原則正規とし、非正規は例外とする仕組みを法制度として確立する。これは労働の原則を根本から問い直す大改革であり、「非正規ありき」の社会に一石を投じるものだ。
現在の日本では、非正規雇用が全体の約4割を占めている。その多くは女性や若者、高齢者であり、低賃金・不安定雇用という現実に直面している。にもかかわらず、政府の対応は場当たり的な給付金頼みで、本質的な改革には踏み込んでいない。給付金ではなく、労働そのものを変える制度設計こそ必要なのだ。
女性の声、非正規の声、すべての労働者の声を
著書第2章「女性の声を政治へ」では、街頭演説などで受けたハラスメント被害についても赤裸々に記している。対話型アジテーターとしての彼女の資質は、圧倒的に男性が多い妨害や揶揄に立ち向かい続けた経験値から培われた。
「黙らない」「あきらめない」「諦めさせない」。そうした姿勢が一人の非正規労働者を、国会へと押し上げた。
働くことが苦しみになっている社会を変えたい——その思いが『愛と連帯』には凝縮されている。雇い止めされた元非正規労働者が国会で声を上げる。その存在こそ、社会の不条理に抗う希望の象徴だ。
彼女の闘いは、単なる議席争いではない。すべての「声を奪われた人々」の存在を可視化し、その尊厳を取り戻すための政治の再定義である。